ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2023 

トゥガン・ソヒエフ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団来日公演を、サントリーホールにて(19日)。

 

R. シュトラウス:交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』作品30

ドヴォルジャーク:交響曲第8番 ト長調 作品88(B 163)

(アンコール)

J・シュトラウスII:ワルツ「芸術家の生涯」作品316

J・シュトラウスII:ポルカ・シュネル「雷鳴と稲妻」作品324

 

ウィーン・フィル来日公演最終日。あまりに素晴らしく感涙!

 

前日のベートーヴェン4番、ブラームス1番を聴いたときも、「ウィーン・フィルの音がするな」と思ったわけだが、この日のツァラとドボ8はさらにそれを上回る、若い頃にLPレコードで聴いたあのウィーン・フィルの音がしたのである!

 

私がウィーン・フィルハーモニー・ウィーク・イン・ジャパンを聴き始めたのは2001年、仕事で独立をして時間がある程度自由になってからであるが、それ以来彼らが来日するときは欠かさず聴いてきた。ただ、サントリーホールにおけるウィーン・フィルの音は、録音で聴いていた音とは違うな、とずっと思っていた。きっと、本来のウィーン・フィルの音ではないな、と。ザルツブルク祝祭大劇場でも彼らの演奏を結構聴いたが、結局のところ、たった2回ではあるが、彼らの本拠地ムジークフェラインザールで聴いたウィーン・フィルの音が一番だ、という結論に達した。

 

それが、今回の来日公演。サン=サーンスとプロコフィエフの日はそこまで感じられなかったのだが、前日のブラームス1番、そして今回のツァラとドボ8は、カラヤンがデッカに録音したあの名録音の音に近似していたのである。これは本当に不思議なことで、ムーティ、ゲルギエフ、メータなどが振ったときよりも、ソヒエフが振った今回の方が、はるかにウィーンらしい音がしたのだ。

ウィーン・フィルはだいぶメンバーもチェンジしていて、若い奏者が増えたし、弦セクションは16型60名中、9名が女性。15%が女性奏者ということになり、しかもそのうち2名はアジア系だ。他のオーケストラに比べたらまだまだ少ない方ではあるが、昔のウィーン・フィルからすれば隔世の感がある。そんなわけで、アンサンブルは以前よりもだいぶ引き締まってはいるのだが、音色が先祖返りしたように感じられるのが不思議である。

 

そして、今回痛感したのはトゥガン・ソヒエフという指揮者がいかにすごいか、ということである。今回のプログラム、色彩感覚に長けたソヒエフにぴったりであろう。

 

ツァラトゥストラ、冒頭のあの輝かしい場面のトランペットがもうウィーン・フィルそのもの。導入部に続く「世界の背後を説く者について」の弦の軽いけれど濃密な響きは、ソヒエフならではのものだろう。ウィーン・フィルの馥郁たる響きと、ソヒエフならではの色彩感が見事に融合した大変な名演である。低音弦楽器の鳴りがソフトながらずっしりとしていて、実に心地よい。

 

後半のドヴォルザーク8番。9月にルツェルンでフルシャ指揮ウィーン・フィルを聴き、つい2週間前にビシュコフ指揮チェコ・フィルで聴き、ここ3ヶ月で3回も聴いているわけだが、そのなかで今回の演奏が断トツに素晴らしかったと言える。いや、自分が過去に聴いたドヴォルザーク8番のなかでもベストに入る演奏であった。

冒頭指揮棒を持っていたソヒエフ、気がついたらもう指揮棒を持っておらず、手の繊細な動きだけでオーケストラをコントロール。絶妙なテンポ設定で、まさにこうでなくては!というかゆいところに手が届く表現とでも言おうか。私が愛聴するカラヤン指揮ウィーン・フィルのデッカ盤(1961年ゾフィエンザールにおける録音)とアプローチは全く違うのだが、オーケストラの音色はまさに、あのカラヤン盤を思い出させる音だったのだ。

ソヒエフはトゥールーズ・キャピトル響でもN響でも、オーケストラを魔法にかけるように音色を変える指揮者だが、つまるところ、それぞれのオーケストラが本来持つ美質を最大限に引き出す天才指揮者、ということなのかもしれない。そんなことを考えてしまった。

ウィンナ・ホルンのまったりした響き、第4楽章冒頭のトランペットのまろやかな音、たおやかな木管の音色、どれも感動的である。第3楽章の弦の泣ける音、ポルタメント、最高だ。ソヒエフの演奏としては、以前トゥールーズ・キャピトルで聴いたシェエラザードの3楽章を思い出した…

 

アンコールは横浜公演で演奏された曲目と同じ、芸術家の生涯、雷鳴と稲妻。実にウィーンの音がする。おそらく、ソヒエフは近いうちにニュー・イヤー・コンサートの指揮者に選ばれるであろう。

 

というわけで、ウィーン・フィルの今回の来日はこれにて終了。メストが降板して、ソヒエフ代役は大正解だった。来年は誰と来るのだらおうか。

 

総合評価:★★★★★