ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン 2023 をサントリーホールにて。

 

指揮: トゥガン・ソヒエフ

ピアノ:ラン・ラン

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

 

サン゠サーンス:ピアノ協奏曲第2番 ト短調 作品22

(ソリスト・アンコール)

映画『ザ・マペット・ムービー』より「レインボウ・コネクション」

 

プロコフィエフ:交響曲第5番 変ロ長調 作品100

(アンコール)

J. シュトラウスII世:『インディゴと40人の盗賊』序曲

J. シュトラウスII世:ポルカ・シュネル『雷鳴と稲妻』作品324

 

当初来日予定だったフランツ・ウェルザー=メストが、がん治療のために来日中止に。代役としてティーレマン、ハーディング、フルシャ、そしてソヒエフあたりがクラオタの間で予想されていたが、結局、シュターツカペレ・ドレスデンの定期公演をキャンセルし、ソヒエフがアジア・ツアーに帯同することになった。

 

この日のプログラムは今回のツアー唯一のもの。前半のランランが弾くサン゠サーンスは大阪、横浜でも演奏されるのだが、後半のプロコフィエフは日本ツアーを通じてこの日だけのプログラムである。

 

会場のサントリーホールは満席。そして、普段の在京オケの定期演奏会とはまるで客層が違う。まあこれは予想通りだ。

 

さて前半はランランが弾くサン=サーンスのピアノ協奏曲第2番。これには度肝を抜かれた…!期待値を30%以上は上回る、壮絶な演奏だったのだ。

ランランのピアノの音は実に濃厚でこってりとしており、そしてきらびやかだ。冒頭のバッハ風のソロがスタイリッシュ。弱音すらきらびやかに聞こえるタッチ。終楽章は、いい意味で曲芸の域に達したと言ってもいいぐらいにアグレッシブであり、こういう部分を聴くとデビューしたての頃のランランを思い出す。

このランランのピアノを引き立てていたのがソヒエフの驚くべき指揮だった。12型(Cb5)という小型のオーケストラであるにもかかわらず、ウィーン・フィルでは普段聴くことができないぐらいに密度が濃く、統制が取れた音が出ていたことに驚嘆する。まるで、オーケストラが魔法をかけられたかのようだった。密度が濃い一方で、第2楽章などでは軽快で明るい音色も聴くことができたし、やはりソヒエフという指揮者、只者ではない。

ランランのアンコールは映画音楽っぽいゴージャスな曲で、案の定映画音楽だった。彼のCD「ディズニー・ブック」に収録されている曲だ。CDの販促かよ…

それにしても、前半は品のない客が何人かいたようで、楽章ごとに確信犯的に拍手する奴や、変な声を出す奴がいて興ざめ。

 

後半はプロコフィエフ5番。ウィーン・フィルがプロコフィエフを演奏するのは珍しくはないが、5番は初めて聴く。録音でもゲルギエフ(2012年映像)、ミトロプーロス(1954年)、マゼール(1991年海賊盤)ぐらいしかないのである。

前半のサン=サーンスが指揮者8:オケ2ぐらいの色合いだったのに対して、後半のこのプロコフィエフは指揮者4:オケ6ぐらいに、指揮者よりもウィーン・フィルの色が強い演奏であった。ソヒエフの指揮によってこの曲は色彩感を増し、フランス音楽のように聞こえる瞬間もあったのだが、ソヒエフの指揮で特徴的である、統制された音色や、鮮やかなフレージングはやや後退し、ウィーン・フィルらしい、いい意味での野暮ったいイメージが前面に出た演奏であった。こういう感覚は、冒頭の音を聴いた瞬間に全曲のおおよそ見当がついてしまうから面白い。

オーケストラは16型。

それにしてもウィーン・フィルの団員は若返って、そして弦楽器の女性比率が以前に比べてさらに高くなったように思われる。アジア系の女性プレイヤーも何人かいる。事実として、男性だけで構成されていた以前と弦の音は明らかに変わった。私が学生のころ、ウィーン・フィルといえばヘッツェル、キュッヒル、シュミードル、シュルツ、ヘーグナー…だったのだが、キュッヒルが数年前にリタイアして、誰もいなくなった。

アンコールの1曲目は全然知らない曲であった。

 

総合評価:★★★★☆