内田光子 with マーラー・チェンバー・オーケストラ 2023 を、サントリーホールにて。

 

ピアノ・指揮:内田光子

マーラー・チェンバー・オーケストラ

 

モーツァルト:ピアノ協奏曲第17番 ト長調 K. 453

ヴィトマン:『コラール四重奏曲』(室内オーケストラのための)

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番 変ホ長調 K. 482

(アンコール)

モーツァルト:ピアノ・ソナタ第10番 より 第2楽章

 

内田光子とマーラー・チェンバー・オーケストラの日本ツアー最終公演を聴く。

 

もう一つのプログラムに比べるとモーツァルトの協奏曲も比較的地味だし、ヴィトマンが挟まれているということもあって、内田光子ながら満席とは行かなかったようで、2階の後ろの方は結構空席が目立つ。

ミューザ川崎シンフォニーホールで聴いたもう一つのプログラムでは、25番でやや違和感があったのだが、今回の公演は内田光子本来のピアニズムが冴え渡り、素晴らしい公演となった。

 

内田の弾くモーツァルトはまさに珠玉の輝きを持ち、音色はこれ以上ないぐらいに研ぎ澄まされ、磨き抜かれている。こうした音を出すのは、当たり前だが一朝一夕にはできないこと。長い年月をかけて熟成された音なのである。これ以上ないくらいに自然な息遣いのモーツァルトだ。

故クラウディオ・アバドによって1997年に創設されたマーラー・チェンバー・オーケストラは、アバドの音楽性に寄り添う形で成長してきた団体である。自主性・自発性に富んだ、伸び伸びとした音楽性が特長のオーケストラで、内田光子の弾き振りなどには、まさにうってつけのオーケストラだと思う。

第22番の第2楽章で管楽のみで演奏される部分などは、いかにもこのオーケストラらしい自然この上ない息遣いが感じられる。ちなみに第22番は長い管のトランペット、小ぶりなティンパニを用いてピリオド系の硬めの縁取りがされていた。

 

オーケストラの編成は弦が8-7-5-4-2で対向配置。

 

前半の2曲目に指揮者なしで演奏されたヴィトマン(1973〜)、今や引っ張りだこの作曲家で、日本でもトッパンホールで自らクラリネットを演奏しての自作のリサイタルをやったり、サントリーホールのサマーフェスティバル2018のテーマ作曲家に選ばれたりしているのでよく知られた名前である。先日ルツェルンに行ったときも彼の作品がいくつか演奏されていたが、現代音楽の作曲家のなかでは比較的保守的な作風だと思ったものだ。

しかし今回演奏されたコラール四重奏曲、通常とは異なる奏法が多用されていて、意外に実験的なところもある作品であった。これは、2003年というちょっと前の作品だからかもしれない。とはいえ、非常に聴きやすい音楽で、そこまで尖ったところが感じられない作風である。

ステージ上には26人の弦楽器奏者(モーツァルトのときと違い、ヴァイオリン、ヴィオラ奏者は全員起立していた)、客席はRC後方にフルート、2階センター通路中央にオーボエ、そしてLC後方にファゴットが配置されステレオ効果満点。

 

アンコールで演奏されたのはソナタ第10番K330の第2楽章。このコンビの前回来日のときのアンコールもこれだったのだが、この慈しむような優しい響きを聴いていると、人生最後に聴く音楽がこの演奏でもいい、とさえ思ってしまう…

 

内田光子に対するソロ・カーテンコール2回。会場には反田恭平・小林愛実夫妻の姿もあった。

 

総合評価:★★★★★