レイフ・オヴェ・アンスネス ピアノ・リサイタルを、東京オペラシティコンサートホールにて。

 

シューベルト:ピアノ・ソナタ第14番 イ短調 D784

ドヴォルザーク:《詩的な音画》 op.85 より

I. 夜の道 II. たわむれ IX. セレナード X. バッカナール XIII. スヴァター・ホラにて

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 op.13 《悲愴》

ブラームス:7つの幻想曲 op.116

(アンコール)

・ドヴォルザーク:《詩的な音画》op.85 より IV. 春の歌

・ショパン:マズルカ op.33-2

・ショパン:マズルカ op.17-4

 

ノルウェーの名ピアニスト、アンスネスの演奏を久しぶりに聴く。前回彼の演奏を聴いたのは2016年、N響定期におけるシューマンのコンチェルトだった。過去最も忘れがたい演奏は、2015年にオペラシティで行われた、ベートーヴェンの協奏曲全曲演奏会。マーラー室内管を弾き振りしての演奏会であった。まだ昨日のことのように覚えているが、あれがもう8年前だとは信じられない。リサイタルを聴くのは2014年のベートーヴェン以来だが、今回も極めて高水準な演奏を聴かせてくれた。

 

さて、今回はシューベルト、ドヴォルザーク、ベートーヴェン、ブラームスというプログラムで、王道ではあるがドヴォルザークが入っているところがミソ。

アンスネス自身が「不当に低く評価されている」と語るドヴォルザークのピアノ曲「詩的な音画」、これが驚くほど素晴らしい曲だったのだ!事前に別のピアニストの録音で予習してそのときも驚いたのではあるが。50年近くクラオタをやっていて、メジャーな作曲家の作品にもかかわらず、そのすごさに全く気づかなかったのは不徳の致すところ。

そのドヴォルザーク作品、かなりの技巧を要求される曲であり、そして非常にカラフルな音が空間に拡がっていく名作だ。ドヴォルザークゆえ、どこか懐かしく美しい旋律もある。「詩的な音画」は全曲演奏すると50分を超える大作だが、今回はそのうち5曲が演奏され、アンコールでさらに1曲演奏された。アンスネスの素晴らしい演奏のCDが出たが、これはマストバイアイテムだ。

https://www.hmv.co.jp/en/news/article/220902139/ 

 

他の作品たちも、アンスネスは余計な装飾を施すことなく、極めて自然なアプローチで、自己主張なしに作品そのものに語らせるタイプの演奏とでも言おうか。例えばベートーヴェン「悲愴」の冒頭の和音など、あっさりしていて拍子抜けするくらい。だが、それがかえってその後の展開における作品の雄弁さにつながっているのだ。若きシューベルトが書いた14番のソナタ、若さを感じさせないような陰鬱な表情もごく自然に聞こえてくるし、老境に達したブラームスの渋い幻想曲も、変に構えたところがなくすんなりと心に染み渡る。それにしても、ブラームスの幻想曲は甘さがなくとことん渋い音楽だ。1作品前のクラリネット五重奏曲は、渋いなかにもエロティックな響きが感じられるのであるが。どちらも風光明媚なオーストリアの温泉保養地、バート・イシュルで作曲されている。

 

アンコールはドヴォルザークからもう1曲と、ショパンのマズルカ2曲。アンスネスのショパン、いわゆるショパン弾きとは違う暗めのテイストがあるのがいい。

 

この日、同時刻に辻井伸行のピアノ、クラウス・マケラ指揮オスロ・フィルのコンサートが被っていたのだが、それでもかなり客席が埋まっていた。アンスネスはN響との共演も楽しみである。

 

総合評価:★★★★★