読売日本交響楽団第632回定期演奏会をサントリーホールにて。
指揮=セバスティアン・ヴァイグレ
ピアノ=ルーカス・ゲニューシャス
ソプラノ=アンナ・ガブラー
メゾ・ソプラノ=クリスタ・マイヤー
バリトン=ディートリヒ・ヘンシェル
バス=ファルク・シュトルックマン
合唱=新国立劇場合唱団(合唱指揮=冨平恭平)
ヒンデミット:主題と変奏 「4つの気質」
(ソリスト・アンコール)ゴドフスキ:トリアコンタメロン第11番「懐かしきウィーン」
アイスラー:ドイツ交響曲 作品50(日本初演)
ベルリンにあるハンス・アイスラー音楽大学には日本からも多くの優秀な音楽家が留学しているが、その大学の名前になっているハンス・アイスラー(1898〜1962)という作曲家、名前は知っているけれどその作品を知らないという人が多いのではないだろうか。実は私も彼の作品を聴いたことが(おそらくは)なかったし、実演で聴くのは今回が初めてである。
ユダヤ系ドイツ人で、シェーンベルクのもとで12音技法を学んだ作曲家で、共産主義者。ユダヤ系ゆえにナチを逃れて米国に亡命するも、戦後「赤狩り」で国外追放となり、迷うことなく東ドイツに移住したという。東ドイツ国家「廃墟からの復活」はアイスラーの作曲だ。
「三文オペラ」で有名なベルトルト・ブレヒト(1898〜1956)の詩を用いたドイツ交響曲、最近は録音も増えてはいるが、日本では今回が初演となる。そのため、Pブロックは合唱団に使用されていて販売されていなかったとはいえ、マイナーなプログラムにもかかわらずかなり客席は埋まっていた。
12音技法が用いられているとはいえ、一般大衆向きの音楽を目指したアイスラーゆえ、その音楽はとてもわかりやすいのが特徴的だ。そして、ブレヒトの詩は「階級闘争」をテーマにしたものが多く、今読むと時代錯誤感が満載だ。それにしても、戦争が終わったと思ったらまたしても別の戦争に向かって行くという時代背景を考えると、こういう芸術作品が生まれてくるのもわかる。
Pブロックに新国立劇場合唱団約80名が配置されていたが、この合唱、オーケストラともいつもながらレベルが高い。驚くべきは独唱陣で、よくこのマイナーな曲にこれだけすごい歌手を呼んだものである。ファルク・シュトゥルックマンはバレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場「ニーベルンクの指環」ヴォータン役が強烈な印象で私の大好きな歌手だった。もっとも、今回はこの人の歌唱が一番怪しかったのだが。クリスタ・マイヤーはバイロイト音楽祭などでブランゲーネなど数々の脇役を演じたメゾで、太く存在感ある声が印象的だった。第1楽章(Pブロックで歌唱)、終楽章のみ登場したソプラノのアンナ・ガブラーも、バイロイトの脇役や新国立劇場でおなじみ、ソプラノとしては深い声である。比較的鋭い声質のディートリヒ・ヘンシェルも日本でおなじみの歌手だ。
まあ、初めて聴く曲ゆえ、演奏のレベルよりも曲そのものへの関心の方が高かったのは事実で、12音技法を採り入れながらわかりやすい音楽が書かれていることが驚きである。オーケストラのサイズは14型。
前半も知らない曲で、ヒンデミットのピアノと弦楽器のための「4つの気質」。いかにもバレエ音楽らしい、優雅な側面を持った音楽であるが、音楽だけ聴いているとちょっと眠たくなる類の曲だ。このマイナー曲のピアノにゲニューシャスを用意するというのも、後半同様に贅沢な話である。ゲニューシャスのアンコールはゴドフスキの「懐かしきウィーン」、書かれたのが1920年という時代を感じさせる退廃的な雰囲気の作風だ。
総合評価:★★★☆☆