東京交響楽団第715回 定期演奏会をサントリーホールにて。

 

指揮:ジョナサン・ノット

ソプラノ:カテジナ・クネジコヴァ

メゾソプラノ:ステファニー・イラーニ

テノール:マグヌス・ヴィギリウス

バス:ヤン・マルティニーク

合唱:東響コーラス

 

ドビュッシー/ノット編:交響的組曲 「ペレアスとメリザンド」

ヤナーチェク:グラゴル・ミサ(Paul Wingfieldによるユニヴァーサル版)

 

いつもながら、ジョナサン・ノットらしい通好みのプログラム。そして、前半・後半とも重くプレイヤーにとって一切手が抜けない曲が並んでいる。

 

前半は5幕から成るドビュッシーの傑作オペラを、ジョナサン・ノットが45分強のノンストップの組曲にまとめたものである。素晴らしい!オペラは正味150分にもなる大作であり、傑作だとは思うものの、どうしても眠くなってしまうことが多いのだが、こうしてオーケストラのみで45分程度の作品になると、ストーリーを追うのも苦にはならない。

実はフランス音楽に抜群の適性を示すノット&東響。彼らが最初に共演したラヴェル「ダフニスとクロエ」でもそのことを痛感したが、今回もぞくぞくするような演奏だった。交響詩「海」にも通じる、弦の色彩感あふれるトレモロは細やかな泡立ちのよう。

ノットはこの組曲を、音楽監督を務めているスイス・ロマンド管で演奏しCDにもなっており、その演奏がまた鮮やかかつ軽やかで素晴らしいものだが、今回の東響との演奏は全くそれに引けを取らないものだ。第3幕の有名なシーン、フルート、オーボエ&イングリッシュホルンの素晴らしい音色によって情景が目に浮かぶようだ。

 

十分にお腹いっぱいになった前半であるが、後半は合唱、独唱が加わって「グラゴル・ミサ」である。昨年この曲を取り上げた大野和士指揮都響も、なかなか聴き応えがある演奏であった。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12763542944.html

都響の演奏は「1927年第1稿」と表記されていたが、今回の「Paul Wingfieldによるユニヴァーサル版」と同じ9曲で、最後に冒頭の「イントラーダ」がもう一度繰り返されるという点で同じだった。ノットによれば、ユニヴァーサル版は序奏で3つのパートが5/8拍子、7/8拍子、3/4拍子で演奏するという複雑さを持っているとのこと。後に作曲者はわかりやすくするため全て3/4拍子に書き換えたが、本来欲しい音は複雑な記譜にあったはずで、東響のような優秀なオーケストラでやらない手はない、ということらしい。

さてこの後半、前半とはうってかわって濃厚で、ヤナーチェク独特の艶っぽい音色になっていたのはさすがである。驚いたのは、ノットが指揮棒なしで振っていたこと!私が知る限り、これは初めてではなかろうか?合唱曲の場合、両手で細やかなニュアンスを出せるからだろうか?余談だがファビオ・ルイージはすっかり指揮棒を使わなくなった。

独唱陣では、ソプラノのクネジコヴァが明瞭な発声とヤナーチェクに合った濃い声質で聴き応えがあった。Pブロック全体に配置された合唱はメンバー表を見る限り総勢100名強。いつもながら力強い歌唱のうえ、あれだけの人数がいながら細かいニュアンスまで表現されていたのはさすがである。

長大な第5曲、RDブロックにはバンダのクラリネット3名が配置され、ふくよかなハーモニーが客席に響き渡る。昨年の都響での演奏のとき、このクラリネットのバンダが全く記憶にないのだが、どうやら舞台裏に配置されていたようだ。

第7曲「アニュス・デイ」の合唱が出だしからかなり力強く、きびきびとした速めのテンポだったのは驚き。第8曲のオルガン・ソロ、都響のときと同じ大木麻理さんのオルガンが壮大極まりない。

 

弦は16型対向配置。オーボエ首席は東京芸大4年の荒木良太氏。なんと、阪大基礎工学部卒業後に東京芸大に入り、昨年の日本管打楽器コンクール・オーボエ部門で優勝したという経歴である。今年3月まで東響オーボエ首席奏者は荒絵理子さんと荒木奏美さんだったところ、荒木奏美さんが3月で退団、今回荒木良太さんが首席・研究員として入団したということになる。ややこしい。

 

総合評価:★★★★★