トッパンホール23周年 バースデーコンサート

 

周防亮介(ヴァイオリン)

笹沼 樹(チェロ)

兼重稔宏(ピアノ)

小川恭子(ヴァイオリン)

中 恵菜(ヴィオラ)

田原綾子(ヴィオラ)

佐山裕樹(チェロ)

クァルテット・インテグラ

三澤響果(1st ヴァイオリン)

菊野凜太郎(2nd ヴァイオリン)

山本一輝(ヴィオラ)

築地杏里(チェロ)

 

シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番 変ロ長調 D898[周防、笹沼、兼重]

シューベルト:弦楽四重奏曲第14番 ニ短調 D810《死と乙女》[クァルテット・インテグラ]

ベルク:弦楽四重奏曲 Op.3[クァルテット・インテグラ]

ブラームス:3つの間奏曲 Op.117[兼重]

シェーンベルク:浄められた夜 Op.4[周防、小川、中、田原、笹沼、佐山]

 

新しいホールだと思っていたトッパンホールもすでに23歳。そりゃ、自分も歳をとるはずである。トッパンの本社に併設された室内楽専用ホールであるが、交通の便はよくないにもかかわらずこれだけ多くのファンが足繁く通う室内楽の殿堂となったのは、圧倒的な企画力であろう。通を唸らせる素晴らしいアーティストをたくさん連れてきて、そしてマニアックなまでの選曲をして、それで交通の便が悪いにもかかわらず多くのファンが集まるのである。すごいことだ。

 

さて今回のバースデーコンサートはオール日本人出演者。バースデーといっても、ステージに花が飾られるなどということもなく、いつも通りのいたって地味なステージである。

休憩2回をはさんだ3部構成。

 

最初はシューベルトのピアノ三重奏曲第1番。第1番といってもD898、シューベルトの死の1年前に作曲された作品であり、大作曲家の(30歳ではあるが)円熟した筆致が見て取れる傑作である。周防、笹沼、兼重の3名によるトリオは非常にレベルが高く安定した音楽であったが、この曲の歌謡性をもう少し強調してほしかったようなところもある。いや、とはいえかなりハイレベルな演奏だったことは間違いない。

 

15分の休憩をはさんで演奏されたクァルテット・インテグラによる弦楽四重奏曲2曲、これが圧巻であった!

「死と乙女」、冒頭から4人の息がぴったりと合っていてそれを聴いただけでもすごい迫力が感じられるのだが、27歳の若者が書いたとは思えない陰鬱で深刻な表情の描き方がすごい。やはり常設のアンサンブルは強い。一分の隙もないぐらいに綿密に設計された音楽で、あっという間の40分であった。思わずブラボーを叫ぶ。

続いて演奏されたベルク、これがまたキレッキレなうえにウィーン世紀末を感じさせる音色と歌謡性が見事な演奏であった。全員20代のメンバーでベルクの曲をこんなに魅力的に演奏できるとは、ただただ感嘆せざるを得ない。クァルテット・インテグラ、こんなすごい若手奏者たちがいるのだから、日本の音楽界の将来は明るい。

 

さらに15分の休憩をはさんで、まずは兼重稔宏氏によるソロでブラームスの間奏曲。正直、全く期待していなかったこの演奏、あまりのハイクオリティにのけぞってしまった。晩年のブラームスの枯れた味わいが、これ以上ないくらいに研ぎ澄まされた音色で演奏されていて、深い陰影が施されている。素晴らしい演奏であった。知らないピアニストであったが、この人の名前は覚えておくに値する。

最後は6人の弦楽器奏者による浄夜。弦楽六重奏版の浄夜は聴く機会がそれほど多くないし、編成からして常設団体による演奏というのがない。そんなわけで今まで弦楽六重奏版で聴いたこの曲の演奏でよかったことがほぼないのであるが、今回はかなり満足度が高い演奏であった。6名の演奏水準が極めて高いということと、目指す音楽の方向性が一致しているということなのだろうか。

 

最後は出演者全員とプロデューサーである西巻氏がステージに上がって挨拶。16時開演で、2回休憩をはさんで19時15分頃終了。客席は満席であった。

 

総合評価:★★★★★