プラチナ・シリーズ第2回 藤村実穂子~日本が誇るメゾソプラノ~ を、東京文化会館小ホールにて。
メゾソプラノ:藤村実穂子
ピアノ:ヴォルフラム・リーガー
モーツァルト:
静けさは微笑み K152
喜びの鼓動 K579
すみれ K476
ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼く時 K520
夕べの想い K523
マーラー:『さすらう若人の歌』
1. 「恋人の婚礼の時」
2. 「朝の野を行けば」
3. 「胸の中には燃える剣が」
4. 「恋人の二つの青い眼」
ツェムリンスキー:『メーテルリンクの詩による6つの歌』 Op.13
1. 「三人姉妹」
2. 「目隠しされた乙女たち」
3. 「乙女の歌」
4. 「彼女の恋人が去った時」
5. 「いつか彼が帰ってきたら」
6. 「城に来て去る女」
細川俊夫:2つの日本の子守唄(日本民謡集より)
1. 五木の子守唄(熊本県民謡)
2. 江戸の子守唄(東京都民謡)
(アンコール)
ツェムリンスキー:
子守唄
春の日
夜のささやき
日本を代表するメゾ・ソプラノ歌手である藤村実穂子によるリサイタルを5年ぶりに聴く。藤村さん、オペラや声楽曲にはよく登場されるのだが、リサイタルは思ったほど多くない。そういうこともあり、会場はほぼ満席であった。
今回も独墺系プログラムがメイン。モーツァルト、マーラーから、かなりディープなツェムリンスキーまでカヴァーし、最後に細川俊夫編曲の子守唄2曲で締めるというかなり通好みの構成だ。
ピアノは彼女のリサイタルでは毎回同じ、ヴォルフラム・リーガー。
最初のモーツァルト数曲(「静けさは微笑み」は、ヨゼフ・ミスリヴェチェクによるオペラのアリアの編曲版)、どういうわけか音程が下がり気味でちょっと不安定な歌唱であったんのは意外。マーラーやツェムリンスキーではそれほど気にならなかったのだが。藤村さんはキャリア初期にモーツァルトを歌っていたはずだが、彼女のモーツァルトを聴くのは今回が初めてである。
マーラー、若き日の青臭いまでの香り立つロマンを感じさせる音楽だが、藤村の歌唱は以前感じられたみずみずしさよりも円熟を感じさせるものになっていた。藤村さんのマーラーといえば、交響曲第2番「復活」、第3番の独唱でもう何度聴いたことか。あの、オーケストラの響きまでも変えてしまうくらいの格調高いマーラー歌唱を、こうしてリサイタルで聴けるというのは幸せだ。
この日の事実上のメインはツェムリンスキー。後期ロマンでありながら旋律が明確ではなく、なかなか耳に残りにくい作品である。藤村さんはコロナ渦の2021年に大野和士指揮都響とこの曲のオーケストラ伴奏版を歌っていたが、あまり印象に残っていないのは、ツェムリンスキーの音楽のそうした傾向にあるかもしれない。
https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12705438175.html
ツェムリンスキーの幽玄で陰影に満ちた作品が、藤村さんの格調高く凜とした声で歌われると、なんとも言えない薫りが感じられる。ただ、マーラーもそうだが、こうした作品だと本当は何が歌われているかしっかりと噛みしめたいところ。プログラムの歌詞対訳の字があまりにも小さく、会場の暗さもあり、老眼鏡をかけても全く解読不能なのであった…
最後に歌われた、日本人なら誰もが知っている日本の子守唄、これが今回のリサイタルでは一番しっくり来た。藤村さん自身が語っているとおり、細川氏による編曲は彼女の声を熟知したもので、耳に心地よい響きだった。やはり作曲者は客席にいらした。
アンコールは3曲、一つも聴いたことがない曲。1曲目は歌詞で子守唄であることがわかり、2曲目、3曲目は眠りとか夜に関係あることはわかったのだが。いずれも短いツェムリンスキーの歌曲だった。
リーガーのピアノがいつもながら見事で、抑制が効いていながらしっかりと表情が付けられていて、それでいて藤村さんの歌にぴったりと寄り添い邪魔をしないのだ。
総合評価:★★★☆☆