読売日本交響楽団第260回土曜マチネーシリーズを、東京芸術劇場コンサートホールにて。
指揮:マリオ・ヴェンツァーゴ
オネゲル:交響的運動第1番「パシフィック231」
オネゲル:交響的運動第2番「ラグビー」
バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第1番 BB. 48a(Vn:ヴェロニカ・エーベルレ)
(アンコール)ニコラ・マッテイス:アリア・ファンタジア
ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 作品67「運命」
一昨年にブルックナー3番、前週にブルックナー4番で質の高い演奏を披露したスイスの指揮者、マリオ・ヴェンツァーゴによる演奏会。
前半はまず、ヴェンツァーゴと同じスイスの音楽家であるオネゲルの交響的運動から2曲。
オネゲルのこの名曲、ミシェル・プラッソン指揮トゥールーズ・キャピトル国立管による録音が素晴らしく愛聴盤なのだが、それに比べるとヴェンツァーゴのアプローチはだいぶ解剖学的というか、テクスチュアの細部をくっきりと浮き彫りにしている感がある。
パシフィック231、作曲者は描写音楽ではないと言っているものの、後半は機関車が力強く疾走するイメージがある音楽だが、ヴェンツァーゴの表現は力強さよりも優雅さが勝っていると言うべきか。
第2番、ラグビーワールドカップの時期に合わせてこの選曲なのかどうか不明だが、こちらも後半の、華麗なパスワークを彷彿とさせる流麗な音楽、ヴェンツァーゴの演奏だと割と分析的に聞こえてくる、とはいえ、そうした指揮にオーケストラがフレキシブルに反応しているのが素晴らしい。
前半オネゲルの後はバルトークのヴァイオリン協奏曲第1番。バルトークが女性ヴァイオリニストに献呈したものの、そのヴァイオリニストは演奏することもなく封印。よほどバルトークのことが気に入らなかったのだろうか?まあ、破棄しなかっただけよかったか。そのようなわけで1958年、ハンスハインツ・シュネベルガーの独奏、パウル・ザッハ—指揮によりバーゼルで初演された。
16型のオネゲルからオーケストラを縮小するかと思いきや、なんとそのままのサイズで協奏曲が演奏されたので驚いた。ドイツの女性ヴァイオリニスト、ヴェロニカ・エーベルレの独奏が秀逸。美音ではあるが甘くなりすぎないのがバルトークにふさわしい。大オーケストラにひけを取らない音量。エーベルレは過去何回か聴いたことがあるが、大ホームランはなくても安定した打率の素晴らしいヴァイオリニストである。アンコールは聴いたことがない曲だったが、マッテイスという人の作品で、以前イザベル・ファウストもアンコールで取り上げた作曲家。なんと、バッハよりも年長のイタリア人作曲家である。
後半はベートーヴェン5番。あれだけ精緻なブルックナーを作り上げた指揮者なので期待していたが、全体としては比較的普通の演奏である。ただ、冒頭の「運命の動機」にはびっくり。レガートをかけているのか?というぐらいに角が全くない、丸い表現で、「運命はかく扉を叩く」というメッセージは完全に排除されている。ヴェンツァーゴは古楽系の人ではないが、かなりすっきりと骨格を浮き彫りにした音楽を作る人で、音が丸いのでパンチというのはあまり感じられない。それでも、あまり変わったところはなくて、安定していて水準が高い演奏だった。
土曜日の芸術劇場、かなり座席が埋まっていた。
総合評価:★★★☆☆