読売日本交響楽団第631回定期演奏会をサントリーホールにて。
指揮:マリオ・ヴェンツァーゴ
スクロヴァチェフスキ:交響曲 (日本初演)〈生誕100年記念〉
ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調 「ロマンティック」WAB104(1878/80年稿・ノヴァーク版)
イタリア系スイス人の名匠、マリオ・ヴェンツァーゴが読響に2回目の登場。
そして、今回のプログラムは読響の常任指揮者を務めた巨匠スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ(1923〜2017 以下ミスターS)の生誕100周年を記念して、前半にミスターS作品が配置された。前半ミスターS作品、後半ブルックナー4番というプログラムは、かつてミスターS自身が読響で取り上げたことがあった。
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さて前半のミスターS作品だが、正直、面白くない…まあこれは、今まで読響で聞いたミスターSの曲がどれも結局のところ印象に残っていないことからも予想できたのだが。名指揮者、必ずしも名作曲家ならず。例外はマーラーである。まあ、サロネンは悪くないか。逆に、名作曲家が名指揮者になるケースは比較的多い。耳がいいからなのだろうか?ピエール・ブーレーズ、タン・ドゥン、オリバー・ナッセン…
ミスターSは卓越した指揮者だったゆえ、オーケストラがどうすれば美しく響くかとか、どうすれば効果的に鳴るかとか、そういったことは熟知していたのだろうが、肝心の曲想、こればっかりは作曲家としての天分、才能がなければどうしようもないのである。
今回の聴衆の目当ては、前回このオケでブルックナー3番の素晴らしい演奏を聴かせたヴェンツァーゴのブルックナー4番であろう。前回の3番の印象は、眼からうろこが落ちるという言葉が適切であろう。驚きの解釈だった。
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今回の4番、結論から言うと——非常に面白く、細部まで構築されていてすごい演奏だと思ったのだが、感動したかというと…それはなかった。3番は自分の脳に焼き付いているというほど親しんでいない曲なので、ヴェンツァーゴのアプローチは斬新で発驚きの連続だったのだが、4番のようにブルックナー作品のなかでは通俗名曲の部類に入る作品で、幼少期から聞き込んでいる音楽だと、感動のツボがもうできあがっていて、ヴェンツァーゴの演奏はそこからはやや逸脱していたように思われたのだ。
そういう意味では、前の週にルツェルン音楽祭で聴いたばかりの、ユロフスキ指揮バイエルン国立管のあの渋い音色でありながら生き生きとした推進力を持った演奏の方が、断然自分の好みということになる。
https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12819701727.html
しかし今回のヴェンツァーゴの演奏は細部まで非常によくできていて、オーケストラのレベルの高さが際立っていた。読響はヴェンツァーゴとの相性がいいのだろうか。
テンポは全体には速めであるが、第2楽章、第3楽章は比較的通常テンポ。ただ、第4楽章はかなり速めだった。計測してはいなかったが、トータルの演奏時間はパウゼを入れて65分弱だったろうか。ヴェンツァーゴがバーゼル交響楽団を振った録音は61分なので、そのぐらいだったかもしれない。カラヤンの録音は64分程度。ちなみにミスターS指揮ザールブリュッケン放送響の録音は70分だ。
第1楽章途中の金管のファンファーレなども普通に吹かせるのではなく、ふわーっとした感覚で吹かせていたのは、教会で鳴るトロンボーンのイメージなのだろうか。ドイツ的な重厚感というのはなくて響きがすっきりしておりテクスチュアはクリアで明確だ。そんなわけで、よく知っている曲でこの部分がこう鳴ってくれないとちょっと不満だなあ、というところが多々あるわけである。
オケは16型通常配置。
それにしても…つい先日までルツェルン音楽祭に10日間いて、久しぶりにサントリーホールで日本のオーケストラの定期公演に来ると、聴衆の静かさと集中力の高さ、総合的なレベルの高さに驚かされる。バイエルン国立管によるブルックナー4番の演奏妨害をした環境活動家がもし、熱心なブルオタが結集するこのサントリーホールの演奏会で、演奏中に声を張り上げて妨害をしたら、下手をすれば暴力沙汰になったであろうし、ホール側もなんらかの措置をとっただろうと思う。
総合評価:★★★☆☆