藤田真央のピアノ・リサイタルをKKLルツェルン・コンサートホールにて(9月2日)。
ショパン:
ポロネーズ嬰ハ短調Op.26-1
ポロネーズ変ホ短調Op.26-2
ポロネーズイ長調Op.40-1
ポロネーズハ短調Op.40-2
幻想ポロネーズ変イ長調Op.61
リスト:ソナタロ短調S.178
(アンコール)
シューマン(リスト編曲):献呈
昨年(2022年)、シャイー指揮ルツェルン祝祭管とラフマニノフの2番のコンチェルトでルツェルン音楽祭デビューした藤田真央、今年はソロ・リサイタルである。休憩無しのリサイタル。
すごすぎる…藤田真央が天才であることは、日本での演奏会でも、モーツァルトのソナタ全集の録音(ソニー)でもわかっていたことではあるが…まさに、国際的な音楽祭でこれだけ堂々たる演奏を展開するとは!彼の演奏が、国際規準を完全にクリアしていることが今回の演奏でよくわかった。ルツェルンの聴衆を総立ちにさせたのである。
彼は、大舞台になればなるほど凄みを発揮できるタイプなのだろうか?日本の小さいホールで演奏したときと全く変わらないステージマナー!いつも通り、白いハンカチを持ってひょこひょこと登場し、にこにこしながら挨拶したが、弾き始めると別人のようになった。本場の音楽祭で、多くの聴衆を飲み込んでしまうくらいの貫禄。文字通り、完璧な演奏である。
前半のショパン。ポロネーズ4曲と、幻想ポロネーズを一気に演奏したのだが、どうしたらあんなとろけるような、まろやまな音が出せるのだろうか?自分もピアノをかじっているから少しはわかるが、あんなまろやかな音、普通はまず出せない。単に音が柔らかいというだけではなくて、ハーモニーのバランスは絶妙だし、絶妙なタッチでショパンの叙情性を余すところなく表現仕切っているのだ。通称「軍隊ポロネーズ」(Op.40-1)も、全く軍隊調ではなくまろやかでしなやかな表現であり、この曲のイメージを覆すアプローチである。幻想ポロネーズがまた洗練の極みで、これはぜひ録音してもらいたいものだ。
拍手をはさんで後半はリストの傑作、ロ短調ソナタ。
超絶技巧を要求されるこの曲、完璧なテクニックで弾かれるだけでも感心するものである。しかし、藤田真央の演奏はテクニックの完璧さ(本当に、ミスタッチゼロだった)は言うまでもなく、ショパンのような叙情的側面をこの曲が持っているということを痛感させる、実にすごい演奏であった。粗暴なまでのテクニックを要求される部分でさえ、彼の演奏からはたおやかささえ感じられたのである。こちらもまた、従来の演奏のイメージとは一線を画する名演であった。
それにしても、リストの音楽はスイスの山や湖の風景に非常にマッチしていて、この地でこの名演を聴けたのは幸せだ。
これだけの演奏ゆえ、終演後の聴衆の熱狂もまたすごかった。ルツェルンの聴衆は割と大人しいと前から思っているのだが…昨年の藤田真央のラフマニノフの映像でも聴衆が熱狂していたし、藤田真央の凄さが世界的に認知されてきているのかもしれない。なんとなく、日本人として非常に誇らしい。彼は日本人音楽家のなかでは、小澤征爾以来のクラシック音楽における大物になるであろうと私は予想している。
今回残念だったのは一部の聴衆である。
日本に比べてひどい咳が多いのは予想していたのでまだいい。
ひどかったのは、事前にモバイルのスイッチはオフにしましょうというアナウンスがあったにもかかわらず、モバイルの着信音が鳴り、さらにひどいことにラジオか何かだろうか、突然音楽とアナウンスが大音量で流れたことである(1階左手)。その主は走って外に出て行ったのだが、電子機器の電源の切り方もわからないような奴はコンサートに来るべきではなかろう。藤田真央の演奏に影響しないか心配したが、幸いにして全く影響されていなかった(と思う)。ものすごい集中力である。
アンコールはリスト編の「献呈」。反田恭平がよくアンコールで取り上げる曲である。
16時開演、休憩なしで17時20分終演。終演後もカンカン照りで暑い。
総合評価:★★★★★