ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏会を、KKLルツェルン・コンサートホールにて(9月1日)。曲目はブルックナーの交響曲第7番ホ長調、1曲のみ。

 

日本でもおなじみの巨匠ブロムシュテット、本公演時点で96歳!現役指揮者としては、すでにストコフスキーの95歳の最長記録を破って更新中ということになる。

そのブロムシュテットの十八番であるブルックナー7番を、かつての手兵ゲヴァントハウス管で聴けるとは望外の喜び。

 

予想通り、何も足さず何も引かない、自然体そのものの音楽!ゲヴァントハウス管のややくすんだ暗めな音は、N響の機能的で明晰な音で聴くブルックナーとはまた、当たり前ながら全く別の味わいがある。金管も、フォルテッシモでもうるさくない。

全体のバランスが非常によく、フィナーレに向けて音楽が壮大にクレッシェンドしていく、そんな演奏だった。予想したよりもデュナーミクの幅は大きくはなかったが、弱音は繊細。

最近の巨匠はいつもそうだが、譜面台に譜面を置いてはいたが全く開かず、お守りのようだった。指揮棒は持たず、座ったままの指揮である。長身の巨匠がその身体を大きく揺らして指揮棒を振っていた時期に比べると、どうしても音楽の彫琢の度合いがやや緩くなるのは致し方ないが、テンポが極端に遅くなるようなことはこの人の場合、皆無である。ブロムシュテットは年をとるほどに音楽が若返ってきた不思議な指揮者だ。

 

ところで感動的な第2楽章クライマックス、今回も鳥肌が立ったのであるが、従来の演奏ではクライマックスでのシンバルとトライアングルを加えていなかった巨匠、今回はシンバルを加えている!あまりに自然なので聴いているときにはその異変に気がつかなかった。

従来、巨匠のブルックナー7番は(シンバルとトライアングルが加えられている)ノヴァーク版使用とされていながら、第2楽章のシンバルとトライアングルは削除されていたのだった。

しかし今回の公演、後でプログラムをよく見たら…”Aufführung in der Edition von Paul Hawkshaw”とある。ポール・ホークショー版による演奏。なんと、巨匠は96歳になって新しい版に取り組んでいたのだ!言われてみれば、なんとなく普段聞こえないホルンの音や木管の音が聞こえたりしていたような…私もいい加減なものである。

ポール・ホークショーは米国イェール音楽院教授で、この4月にピーター・ウンジャンが彼の批判的校訂版を用いてブルックナー7番を演奏したそうだ。ただ、今回のプログラムによれば、「ホークショーが削除した、長年の論争であるシンバルの一撃をブロムシュテットが残した」とあるから、シンバル追加はホークショー版とは関係ないことになる。なんだか、わけがわからん。

ちなみに過去ブロムシュテットのブルックナー7番の感想はこちら。毎回代わり映えしない内容だが。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12327897113.html 

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12216548952.html

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-11026517367.html 

 

今回の私の席、気合いを入れて平土間5列目の中央、巨匠の指揮台のすぐ後ろであったが、これはちょっと近過ぎた。このホールだったらもう少し後ろでよかったかもしれない。近すぎて正確にわからなかったが、16型対向配置、第2ヴァイオリンも16だっただろうと思う。管楽器はほぼ見えなかった。残念。

オーケストラがそろったあと、コンサートマスターがいったん袖に引っ込んで、巨匠を支えながら再登場。巨匠が登場しただけで会場からブラボーの声が上がった。

終演後は30秒近い長い静寂!それは素晴らしかったのだが、私の数列後ろのあたりで、第4楽章の音が鳴り終わった瞬間になんか2言くらいしゃべったオッサンがいたのである…どの国にも空気が読めないというか、変なやつがいるものだ。

 

巨匠とゲヴァントハウス管はこの翌日(2日)ラインガウ音楽祭にて同一プログラム(エバーバッハ修道院におけるコンサート。そこで聴きたかった!)、3日リュブリャーナにて別プログラム、5日にブカレストで同一プログラム(ただし、冒頭にエネスク作品が追加)、6日もブカレストで別プログラム、8日にライプツィヒに戻って別プログラム。すごい日程であるが大丈夫なのだろうか?さらに巨匠は9月22、23、24日ベルリン・フィルを振ってベートーヴェンの英雄等を演奏。ご承知のとおり、10月はN響に客演してブルックナー5番、ブラームス3番、シベリウス2番等を演奏する予定。こんなに働いている96歳は他にいないだろう。

一方、ゲヴァントハウス管も首席ネルソンスと11月に来日してブルックナー9番、メンデルスゾーン3番などを演奏する。こちらも楽しみだ。

 

総合評価:★★★★★