山田和樹指揮 バーミンガム市交響楽団来日公演を、サントリーホールにて。

 

ショパン:ピアノ協奏曲 第2番 ヘ短調 Op. 21 [ピアノ] チョ・ソンジン

(アンコール)

ラヴェル:道化師の朝の歌

 

エルガー:交響曲 第1番 変イ長調 Op. 55

(アンコール)

ウォルトン:映画「スピット・ファイア」より前奏曲

 

山田和樹が今年の4月から首席指揮者を務めるバーミンガム市響を率いて来日。

山田和樹(以下ヤマカズ)はスイス・ロマンド管の首席客演指揮者、モンテカルロ・フィル音楽監督など、フランス語圏での活躍をしてきたわけだが、ついに英語圏に進出したというわけである。

バーミンガム市響はサイモン・ラトルやアンドリス・ネルソンスといった、その後名門オケのシェフになった名指揮者が首席を務めたオケであり、これでヤマカズが今後さらなる名門オケに行ったらこのオケはまさしく「登竜門」ということになるのかもしれない。

 

さて、この日の前半はチョ・ソンジンが弾くショパン2番。2015年ショパン・コンクールの覇者であるチョ・ソンジンは、ショパン・コンクールの最近の覇者のなかでも傑出する存在だろうと私は思う。

そのチョ・ソンジンが弾くショパンだが、私は彼のショパンを聴くのは昨年の来日公演リサイタルのアンコールでスケルツォ全曲を聴いて以来、たった2度目。

さすが、チョ・ソンジンのショパンは叙情性にあふれたうえに格調高いものであったが、スタインウェイにしては低音が、よく言えばまろやかだが、悪くいうと痩せて聞こえたのは調律のせいだろうか。

この曲で驚いたのはヤマカズが指揮するオケで、ショパンの2番の伴奏がここまで生き生きと聞こえたのは初めてである。正直、ショパンのコンチェルトのオケパートは「しょぼい」と思わせることが多いのだが、ヤマカズはこれでもかというぐらいに表情付けをしてメリハリをはっきりさせていて、やり過ぎではないかという人もいそうなくらいである。第3楽章中間部の独特のリズムが素晴らしく、ファゴットのソロはまた格別であった。

チョ・ソンジンのアンコールはラヴェル!音色が明るすぎることがなく、いいあんばいの重さを持っている名演。チョ・ソンジン、私は彼がいわゆるショパン弾きだと思っていない。他の作曲家の演奏が素晴らしすぎるのだ。まだ29歳、これからが非常に楽しみなピアニストである。

 

後半はエルガー1番、バーミンガム市交響楽団にとっては自国の作曲家である。

この日の開演前にヤマカズがプレトークをしているのを最後の方だけ聞いたが、バーミンガム市響との来日公演の曲目としてぜひエルガーをやりたかったという話と、第2楽章のテーマがスター・ウォーズ(の帝国のマーチ)に似ているが、エルガーの方が先なのでJ・ウィリアムズがパクったのだ、というような話をしていた。

今まで結構な回数ヤマカズの指揮を聴いてきて、「お、なかなかやるな!」と思う回数と、「???」と思う回数が拮抗しているのであるが、この日は快挙!と言うべき演奏であった。

エルガーの交響曲、個人的には1番より2番が好きで(昨年来日したラトル指揮ロンドン響の2番の超名演は忘れられない)、1番は今までそれほど良さがわからなかったのだが、今回初めて本当の良さがわかったような気がする。

テンポは遅め。普通、この曲は50分強程度で演奏されるのだが、今回のヤマカズの演奏は60分近くかかっていたと思う。遅めのテンポにより、格調高いフレーズのなかに垣間見えるもの悲しさがふっと現れるところは、2番の交響曲に通じるものがあると今回初めてわかった。

バーミンガム市響の演奏、ロンドン響ほど音の密度は濃くなくて、明るく開放的な音であるが、これはこれでなかなかいい。彼らが本拠地としているバーミンガムのシンフォニーホール、行ったことはないが映像で見る限りなかなかよさそうなホールで、このオケの開放的な雰囲気はあのホールで演奏しているからなのか、などと思ってしまう。

それにしても、ヤマカズの指揮ぶりは非常に落ち着いていて、そして彼の棒は巧い。なんとなく、若き日の小澤征爾を彷彿とさせる指揮だ。

終演後、ヤマカズが奏者を立たせたのだが、すぐに第2ヴァイオリンとヴィオラの後ろの4人ずつを立たせたのは、この曲で第2ヴァイオリンとヴィオラのパートがディヴィジされているからである。それにしてもノリのいいオケで、ヤマカズと一緒に最後は全員でバイバイをしていた。

アンコールは聴いてすぐウォルトンだとわかったが、聴いたことがない曲。なんと映画音楽だった。ヤマカズは指揮棒なしで振りながら1回転したり、指揮台を下りて奏者のパート譜をのぞき込んだりと、ショウマンぶりを発揮。この人、日本のオケを振っているときよりも、海外オケを振っている方が断然いい。そういえばスイス・ロマンドとの来日公演もよかった。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-11894796901.html

 

前半14型、後半16型。チョ・ソンジンが出演するとあって客席は結構埋まってはいたが、先日の藤田真央のときの満席までは行かなかったようだ。しかし、やはり女性客が圧倒的に多い。ヤマカズに対するソロ・カーテンコールがあった。

 

総合評価:★★★★☆