東京春祭プッチーニ・シリーズ vol.4《トスカ》を東京文化会館大ホールにて(16日)。

 

指揮:フレデリック・シャスラン

トスカ(ソプラノ):クラッシミラ・ストヤノヴァ

カヴァラドッシ(テノール):イヴァン・マグリ

スカルピア(バス・バリトン):ブリン・ターフェル

アンジェロッティ(バリトン):甲斐栄次郎

堂守(バス・バリトン):志村文彦

スポレッタ(テノール):工藤翔陽

シャルローネ(バリトン):駒田敏章

看守(バス):小田川哲也

羊飼い:東京少年少女合唱隊メンバー

管弦楽:読売日本交響楽団

合唱:東京オペラシンガーズ

児童合唱:東京少年少女合唱隊

合唱指揮:仲田淳也

児童合唱指揮:長谷川久恵

 

2023年の東京・春・音楽祭最終公演、今年のプッチーニ・シリーズは「トスカ」。ワーグナー・シリーズのマイスタージンガーも素晴らしかったが、このトスカもまた非常に満足度の高い公演であった!

今回特筆すべきは、オーケストラ。冒頭の音から14型にしてはかなり力強く、そして華やかである。読響からこれだけ深く、輝いた音を引き出したのは新国立劇場のフランスものの指揮でおなじみであるフレデリック・シャスラン。この人がこんなにいい指揮者だったとは…ちなみにこの人、ピアニスト、作曲家でもあるらしく、映画音楽なんかも作曲しているらしい。歌うところは歌うし、ためもしっかりと作ってエッジが効いた表現であった。

 

さて歌手であるが、事前の期待通りスカルピアを歌ったブリン・ターフェルが圧倒的に素晴らしい!4月5日のリサイタル(あの日は正直、それほどしっくり来なかったのだが)の後半でも悪役を歌っていたが、彼の上品で紳士的な声や立ち居振る舞いは、スカルピアに合っている言えよう。というのも、権力を笠に着て美女を手込めにしようという悪辣な役とはいえ、スカルピアは男爵であり貴族だからだ。演奏会形式とはいえある程度の演技が加わっていたが、さすがスカルピアを当たり役としているだけのことはある。第1幕のテ・デウムは実に素晴らしかった。

トスカ役はクラッシミラ・ストヤノヴァ。すっかり忘れていたが2006年の東京のオペラの森(東京・春・音楽祭の前身)でオテロのデズデモナを歌っている。というわけで、トスカを演じるにはいささか薹が立っていると言わざるを得ないのだが、歌唱自体は華やかさがやや後退してはいるもののしっかりしていて、「歌に生き、恋に生き」はさすがであった。

カヴァラドッシ役はイヴァン・マグリ、健康上の理由により降板したピエロ・プレッティの代役だ。主役3人のうち彼だけが楽譜を見ていたのでこの役は歌ったことがなかったか、慣れていないのであろう。第1幕のアリア「妙なる調和」は余裕がなく、声を絞り出しているような印象さえ受けたが、第2幕の”Vittoria!” や第3幕「星は光りぬ」などはそれなりに聞かせて、悪くはなかった。

他の脇役歌手、アンジェロッティを歌った甲斐栄次郎はやはり上手いしいい声である。新国立劇場のトスカで堂守を担当する志村文彦、今回のような演奏会形式だと不安定感が拭えない。新国立劇場だと渋く味がある演技でカバーできるのであるが。

 

東京オペラシンガーズと東京少年少女合唱隊もいつもながら高水準。それにしても児童合唱指揮の長谷川久恵、この人もかなりキャリアが長い。

 

トスカは2公演で、今回日曜日だったわけだが、残念ながら満席ではなかった。これだけ高水準の公演、もったいないことだ。プッチーニ・シリーズはトゥーランドット、トスカと続いてきたが来年はなんだろうか。今から楽しみである。

 

総合評価:★★★★★