NHK交響楽団、ベートーヴェン「第9」演奏会をNHKホールにて(24日)。
指揮:井上道義
ソプラノ:クリスティーナ・ランツハマー
メゾ・ソプラノ:藤村実穂子
テノール:ベンヤミン・ブルンス
バス:ゴデルジ・ジャネリーゼ
合唱:新国立劇場合唱団、東京オペラシンガーズ
今年のN響第9の指揮者は、再来年末での引退を表明している井上道義氏76歳。最近のN響の第9はほとんど外国人指揮者だったが、昨年コロナで入国できなかったルイージに代わって尾高忠明氏が振ったのに続き、今年も日本人指揮者ということになった。
つい先日、秋山和慶指揮東響で第9を聴いたばかりだが、81歳の秋山氏も、今回の井上道義氏も、小澤征爾と同じ齋藤秀雄門下の指揮者である。
今回の井上道義氏の第9、先日聴いた秋山氏と同様に非常にオーソドックスな解釈で、ブライトコップフ版採用。やや弛緩していた秋山氏よりはテンポがしっかりしていたかもしれない。とはいえ、極めて穏当な表現で、奇をてらったところが全くない正攻法のアプローチだ。普段の演奏会で見せる酔っ払いのタコ踊りのような指揮ぶりはだいぶおとなしかったが、これはこの24日の公演でNHKのカメラが入っていたからかもしれない。
オーケストラは16型だが、普段井上道義氏がよく採用するヴィオラが左手奥に位置してのヴァイオリン両翼配置は採用せず、左から時計回りに第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、そして右手の奥にコントラバスという通常の配置である。
今回大先輩にご招待いただいての参加ゆえ、普段私が座ることがない1階センターブロックの席。オーケストラ全体を目の前で見渡せる好位置だったのだが、このホール、こんなに前方のいい場所で聴いても音が上に抜けていってまるで迫力がない…第1ヴァイオリンの音にまるで芯が感じられないのである。
第2楽章のあとに合唱と独唱陣が登場。面白かったのは、打楽器とピッコロが、第4楽章のバリトンが入る直前にステージに登場し、ステージ左手で演奏したこと。確かにこの曲のピッコロ、行進曲で打楽器とともに演奏されるのが出番のほとんどだ。
天下のN響の第9、やはりすごいと思ったのは合唱と独唱のレベルだ。東京オペラシンガーズと新国立劇場合唱団という、プロ合唱団の最高峰が総勢100名ぐらい。当然ながら非常に上手い。そして独唱陣はたった十数分の出番のためにここまでそろえるか、というぐらいに豪華だ。ほとんど目立たないメゾに世界的歌手藤村実穂子さんを使うとは…テノールはバイロイトであの素晴らしい舵手を歌ったブルンズ。バスは当初予定のマシュー・ローズの代役でジャネリーゼというジョージア人歌手。深い声というよりも尖ったまっすぐな声だったのだが、ドイツ語の発音はどうかと思った。まあ私が言うのもなんではあるが。
終演後の道義さんはいつもながらひょうきんでとことん明るい。そしてまだまだ元気。本当に再来年末に引退されるのだろうか?
総合評価:★★★☆☆