ヴィクトリア・ムローヴァ ヴァイオリン・リサイタルを、武蔵野市民文化会館小ホールにて。

 

ヴィクトリア・ムローヴァ(ヴァイオリン)

アラスデア・ビートソン(フォルテピアノ/ピアノ)

 

【ガダニーニ(ガット弦)&フォルテピアノ】

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第4番

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第7番

 

【ストラディヴァリウス「ジュールズ・フォーク」&ピアノ】

武満徹:妖精の距離

ペルト:フラトレス

シューベルト:ヴァイオリンとピアノのためのロンド D895

 

(アンコール)

ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番「春」〜第2楽章

 

1959年生まれソ連出身のムローヴァ。1982年にチャイコフスキー国際コンクールに優勝、その後1983年に西側に亡命したヴァイオリニストである。個人的には2000年以降の来日公演における協奏曲しか聴いたことがなく、こうしたリサイタルを聴くのは初めてだ。

すでに40年以上のキャリアを積んだヴェテランであるが、今回の演奏を聴いて、かつての新鮮なアプローチに衰えがないことを痛感した。本当に、この人は音程が恐ろしくよくてぶれることがないし、深みがある美音も相変わらずだ。

 

今回は前半が古楽器による演奏で、ガット弦を張ったグァダニーニとフォルテピアノ(プログラムにはビートソンの使用楽器がインスブルック1820年製ヨハン・ゲオルク・グレーバー製作とあるが、運んできたのだろうか??)使用。後半がモダン楽器による演奏で、ストラディヴァリウス(ジュールス・フォーク)とスタインウェイ使用。

前半のベートーヴェンが古楽器系の音だったわけだが、個人的には、前半もストラディヴァリウスとスタインウェイで聴きたかった…古楽器の音には風情があるけれど、やはり表現の幅とか深みという点ではモダン楽器にかなわないのである。やや単調に聞こえて、ちょっと眠くなってしまった。

 

後半、拍手なしで続けて演奏された武満とペルト、これが秀逸。武満の「妖精の距離」は1951年、武満初期の作品で、何も知らされずに聴いたら、ピアノ・パートの和声からメシアン作品だと勘違いしそうな曲だ。ヒンヤリとした手触りのヴァイオリンが素晴らしい。そのまま続けて演奏されたペルトの「フラトレス」はいろいろな編成で演奏される作品だが、ヴァイオリンとピアノのための編曲はギドン・クレーメルのためにされたそうだ。ヴァイオリン・パートは武満作品の悠揚とした雰囲気とは異なり速いパッセージが多いが、鐘の音を模しているであろうピアノ・パートが、武満作品と似ているところがあるかもしれない。ビートソンが奏でるこのピアノの音の深さには驚嘆。どうしてあのような音色が出せるのか。古楽器を勉強した方がモダン・ピアノの表現がさらに磨かれると言われているが、ビートソンのモダン・ピアノの演奏を聴いているとまさにその通りなのだろうと実感する。

 

最後に演奏されたシューベルトの作品。シューベルトはあれだけ作品数が多いにもかかわらず、ヴァイオリンソロの曲が少ないと思うのだが、こういう作品があるとは知らなかった。ついでに、調べてみたらヴァイオリン・ソナタや、ソナチネも書いているらしい。あまり有名でないということは、シューベルトの芸術性にヴァイオリン・ソロが向いていないということだろうか?

今回演奏されたロンド、シューベルトの作品としてはやや表面的なところもあるが、非常に華麗でエンディングはそれなりに盛り上がる曲だった。ムローヴァとビートソンはこの曲を古楽器で演奏しているようなので、そちらも聴いたみたい。

 

アンコールはベートーヴェン。やはり、ベートーヴェンはモダン楽器の演奏がいいなあ…

 

総合評価:★★★☆☆