アンドリス・ネルソンス指揮ボストン交響楽団来日公演を、大阪フェスティバルホールにて。
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」
(ピアノ:内田光子)
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 ニ短調 作品47「革命」
5年ぶりのボストン響来日公演。サントリーホールにおける同一プログラム公演は内田光子出演だからであろう、先行・一般発売ともにあっという間に完売し買えなかったので、大阪まで行くことにした。
前回のこのコンビによる来日公演同様、今回もボストン響らしいリッチでふくよかな音色で、満足度の高い公演であった!
このオーケストラ、本拠地とするボストン・シンフォニーホールはかなり残響も多く、そのホールトーンがリッチテイストを生み出しているとも言えるのだが、フェスティバルホールのような残響が少なめのホールで聴いても、オーケストラの弦セクションが豊麗で、管楽器に力強さがあることがよくわかる。最近の来日の東京公演はサントリーホールばかりになってしまったが、かつて小澤征爾がこのオーケストラのシェフだった時代に、デッドな音響の東京文化会館で聴いたマーラー3番には度肝を抜かれたものだった。
前半は内田光子がソロを弾いた「皇帝」。内田光子が弾くベートーヴェンの協奏曲といえば、巨匠クルト・ザンデルリンクとの録音が有名だが、彼女の「皇帝」を実演で聴くのは初めてだ。リサイタルで彼女が弾くベートーヴェンは均整が取れていて、音が重すぎることがないのだが、今回の協奏曲で聴いた彼女のタッチは意外なくらいに重みがあり、12型ながら非常にふくらみとしなやかさがあるオーケストラの重さに十分対抗していた。そのようなわけで、かなり重厚で聴き応えある演奏であった。
オーケストラの冒頭の壮麗な和音を聴いたとき、子供の頃聴いていたルービンシュタインがピアノを弾き、ラインスドルフ指揮ボストン響が伴奏しているあの録音の音と同じだ!と直感した。感激だ。
ネルソンスは基本的に自然な音楽の流れを重視しつつ、ときとして小技を効かせるのだが、そうしたときに弦の豊麗さなど、このオーケストラの特徴が際立っていたから面白い。
後半はショスタコーヴィチの5番。前回来日時は、11番というやや渋めの選曲であれも素晴らしかったが、今回の5番も相当な聴き応えがある演奏だった。
https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12326525803.html
ネルソンスはこの曲の無機的でシニカルな側面をあえて排除し、徹底的に有機的に、ひとつひとつのフレーズに意味を持たせて演奏していたように聞こえた。したがってかなり重く深刻なタイプの演奏になっていたと思う。第1楽章の最後の方とか、第3楽章での弱音は限りなく美しく、正直アメリカのオーケストラと思えないくらいだ。第4楽章のコーダはことさら祝祭感を強調することがなく、「強制された歓喜」に聞こえたのは私だけだろうか。
オーケストラの鳴りっぷりが実に気持ちよい。弦は 15-13-13-10-9と、相対的に中低音が強調されていたのだが、第1楽章冒頭や第2楽章冒頭に重圧感が圧倒的だ。第4楽章の金管セクションなど、全く苦もなく大きくて芯の強い音が出せるのがすごい。そして打楽器セクション!ティンパニはまさに神である。かっこいい。そういえば小澤時代、このオーケストラにエヴァレット・ファースというすごいティンパニ奏者がいたが、彼の愛称ヴィックはドラムスティックのブランドにもなっている。
今回のフェスティバルホールはほぼ満席。招待された学生も多かったようだ。横浜、京都公演はガラガラだったという情報があるので、内田光子効果というところか。
総合評価:★★★★★