クラウス・マケラ指揮パリ管弦楽団来日公演を、サントリーホールにて。
指揮:クラウス・マケラ
パリ管弦楽団
照明演出:佐藤啓
ドビュッシー:交響詩『海』
ラヴェル:ボレロ
ストラヴィンスキー:春の祭典
(アンコール)ムソルグスキー:歌劇「ホヴァンシチーナ」前奏曲「モスクワ河の夜明け」
フィンランド出身、現在26歳の俊英指揮者クラウス・マケラ、あれよあれよという間に出世して、昨年秋からパリ管のシェフに就任。パリ管の任期後には、なんと名門ロイヤル・コンセルトヘボウ管のシェフに内定している。まさにスーパースターだ。
この6月、7月には都響を振ってショスタコーヴィチの交響曲第7番、マーラーの交響曲第6番という重量級プログラムを披露したばかり。
さて今回のパリ管来日公演、一昔前のプレートルやプラッソンとの来日のときと同様、フランスものを中心としたプログラムだ。ストラヴィンスキーはロシア人だが、春の祭典も火の鳥も初演はパリである。
1曲目のドビュッシー「海」。マケラらしい端正なアプローチで、指揮が拍を取っているようなところがあって、この曲の根底にある大きなうねりのようなものが全く感じられなかったのは残念だ。まだこの曲を手中に収めているとは言いがたいだろう。
ちなみに第3楽章、練習番号60の前のトランペットとホルンのユニゾンは復活させていた。
2曲目はボレロ、これは最高であった!スネアはステージ中央、指揮台の正面に配置されていたが、最初の数分間、(私の席からはちょっと死角になっていたのだが)腕が全く動いていなかったのはさすがだ。
それにしても各パートのソロが実に上手い!木管の濃くこってりした音色はまさにパリ管ならではだ。トロンボーンソロ、ちょっとはずしたところもあったが、何よりそのふくよかな音色はまず日本のオケでは聴くことができないものであった。マケラは最初のうちほとんど動きがなかったが、途中からはほとんどグルーヴしているという表現がふさわしいのりになっていった。
パリ管のボレロはかつての来日公演でプラッソン、エッシェンバッハで聴いたことがあるが、エッシェンバッハはほとんど手を使わず眼だけで指揮をしていたのを思い出す。
後半は春の祭典。冒頭のバソンこそエレガントな始まり方だったものの、パリ管の洗練された音色ではなく意外に泥くさい音がしたのは不思議だった。特に第2部の11拍子から後はマケラの振りも相当大きくなっていって、やや荒削りな感は拭えない。
後半のみ照明演出が施されていて、前半青い照明が主体だったが、第2部11拍子のところから赤い照明が主体となっていた。それほど音楽の邪魔をするような照明ではなかったのでよいのだが…まあ、なくてもよかったような気がする。こういう照明が入るあたり、いかにもエイベックスの企画らしい。
パリ管というのはもともと大都市の機能的なオーケストラであり、N響やロンドン響のように普段いろいろなプログラムを演奏しているはず。日本公演だとフランスものやロシアものばかりになるのはいかがなものかと思うのだが、チケット販売を考えるとやむを得ないというところだろうか。前回、前々回の来日時はダニエル・ハーディングの指揮だったが、そのときのプログラムにはベートーヴェン、マーラーなどの独墺系があって、それが洗練の極めとでもいうべき素晴らしいものだったのだ。
まあそうしたことはともかく、マケラとパリ管はまだ始動して1年、これからに期待したいところである。
弦は16型、通常の配置。コンサートマスターは千々岩英一氏。客席は結構埋まってはいたが、1階、2階ともセンターの後方はかなり空席が目立っていた。
アンコール、何をやるのだろうと思っていたら、まさかのホヴァンシチーナ前奏曲。この曲の実演は、マリインスキー管以外で聴いたことがなかった。
総合評価:★★★☆☆