辻彩奈 ヴァイオリン・リサイタルを浜離宮朝日ホールにて。

 

辻 彩奈(ヴァイオリン) 

福間洸太朗(ピアノ)

 

モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第40番 変ロ長調 K.454

フォーレ:ヴァイオリン・ソナタ第1番 イ長調 Op.13

***

権代敦彦:ポスト・フェストゥム~ソロ・ヴァイオリンのための(辻彩奈 委嘱作品)

ラヴェル:ヴァイオリン・ソナタ第2番 ト長調 M.77

サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン Op.20

(アンコール)フォーレ:夢のあとに

 

この演奏会、もともとピアノはレミ・ジュニエだったのだが、2月のほとんどの公演同様ジュニエが来日できなくなり、代役として福間洸太朗が登場。

ちなみに今回、レミ・ジュニエとの国内ツアーだったのだが、ピアノの代役は本公演までの3回が福間洸太朗、残りの公演は小井土文哉が担当するとのこと。

 

現在の日本人ヴァイオリニストのなかでも抜きんでた存在である辻彩奈、今回も素晴らしい演奏を聴かせてくれた。彼女のリサイタルははずれがない。

シルクのような艶やかで心地よい音色、天を翔るようにどこまでも伸びやかで、自由で自然な輝きを持つ表現。技術的に見事な日本人演奏家は多いが、彼女の演奏はそれだけではなく、世界に通用するであろう音楽性を兼ね備えている。

 

この日はモーツァルト、フォーレ、ラヴェル、サラサーテといった王道に加え、現代作曲家権代敦彦への委嘱作という盛りだくさんなプログラムであった。

 

モーツァルトを辻彩奈の演奏で聴くと、どこまでも天真爛漫で純真な音楽で、この時間が永遠に続いて欲しいとすら思う。

フォーレやラヴェルといったフランス音楽も、作曲家ごとに異なった色合いの音色で描き分けるのが見事。フォーレは特に素晴らしくて、福間の陰影がくっきりしたピアノとともに夢見るような表現に舌を巻いた。ラヴェルのソナタ、あまり聴いたことがない曲だったが、ラグタイムの影響を受けた音楽が魅力的で、もっと演奏されて然るべき曲だろう。

 

権代作品、ほぼ1年前にやはり辻彩奈のリサイタルで演奏された曲。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12662403594.html

ヴァイオリニストが協奏曲を弾いたあとのアンコール曲といえば、多くの場合はバッハの無伴奏ソナタとパルティータからの曲で、たまにイザイの無伴奏ソナタ。ごく稀にクルタークを弾くヴァイオリニストもいる。とにかく、ヴァイオリニストが協奏曲のあとに弾くアンコール曲が不足しているのは事実だ。

権代のこの曲、第1番はベルク/武満の後、第2番はシベリウス/ブラームスの後、第3番はメンデルスゾーン/チャイコフスキーの後(もちろん凡庸な作曲家の想定…)と作曲者によりメモされている。

この曲、かなりの技巧を要するもので、各曲の最後、上昇音階のあとに超高音で奏される音はまるで鈴のように聞こえたり、虫の鳴き声のように聞こえたりする。そして、3曲並べて弾かれるとそれなりの長さの曲だ。辻はこの曲、暗譜で演奏。

 

最後に演奏されたツィゴイネルワイゼン、これがまたすごい…この曲、個人的にはヤッシャ・ハイフェッツの演奏を若い頃レコードでさんざん聴いたものだが、ハイフェッツのようなヴィルトゥオーゾ系の演奏とは一線を画するタイプの演奏。極めて安定していて、技巧をひけらかすようなところが全くなくて、正攻法の演奏だと言えようか。ツィゴイネルワイゼンでこういうアプローチをするのは、とても好感が持てる。

 

ピアノの福間洸太朗は前から名前をよく知っているのだが、実演を聴くのは今回が初めてだ。若手だと思っていたが、39歳なのでそろそろ中堅ピアニストというべきだろう。ソリストゆえ、単なる伴奏者の域を超えていて、辻同様に作曲者によって見事に表現を描き分けている。モーツァルトのあと、フォーレの冒頭を聴いて、これはすごいと思った。優秀なピアニストだ。

 

それにしても、辻彩奈のステージマナー、あの若さで余裕を感じさせるのがすごい。緊張とか、しているのだろうか?超難曲もひょうひょうと弾きこなしてしまうスケールの大きさが感じられる。

 

終演後、彼女がマイクを持って少しだけ話をしたが、ピンチを救ってくれた福間さんに感謝しますとのこと。

朝日ホール、9割程度の入りだっただろうか。

 

総合評価:★★★★☆