読売日本交響楽団第237回日曜マチネーシリーズを、東京芸術劇場コンサートホールにて(20日)。

 

指揮=セバスティアン・ヴァイグレ

ピアノ=反田恭平

 

ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲

シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 作品54

(ソリスト・アンコール)シューマン(リスト編曲):献呈

チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 作品64

 

昨年12月から今年2月にかけて、コロナ禍における日本の聴衆のために長期滞在して仕事をしてくれた読響常任指揮者ゼバスティアン・ヴァイグレ。5月26日に再度来日し、14日間の隔離を経て7月まで日本に滞在予定だ。このご時世に日本に長くいてくれて本当に嬉しい限りだが、ヨーロッパでの仕事は大丈夫なのか心配になってしまう…彼がGMDを務めるフランクフルト歌劇場のシュピールプランを見る限り、次回の登場は11月のフンパーディンク「王子王女」までない。

 

さて今回の演奏会、あまりに名曲で固められた演目からしてあまり期待していなかったのであるが、実に素晴らしかった!ゼバスティアン・ヴァイグレ、2019年4月に常任指揮者に就任し、コロナ渦での空白期間もあったとはいえ、読響と非常に良い関係を築きつつあると言えるだろう。これからのこのコンビに目が離せなくなってしまった。

 

この日の弦セクションは14型通常配置。

 

冒頭に演奏されたタンホイザー序曲、これがいきなり素晴らしい出来であった。

マエストロ、以前は普通にタクトを持って指揮をしていたはずであるが、今回は3曲ともタクトなしでの指揮。ベルリン国立歌劇場における師匠(?)であったバレンボイムと同じやり方になってきたというわけだ。2月に二期会でマエストロと読響がピットに入って「タンホイザー」を上演したとき、序曲はオケの編成が小さかったこともあり音がとても薄かったのだが、今回は14型のオケを舞台上でたっぷりと鳴らした快演であった。私の過去の実演の記憶では、ゼバスティアン・ヴァイグレという指揮者は地味で手堅いというイメージであったのだが、今回の演奏では全くそのイメージが覆されたと言っていいかもしれない。こんなに熱くスケールの大きいタンホイザー序曲が聴けるとは!

 

続いては人気ピアニスト反田恭平が弾くシューマン。今や自身でオーケストラをプロデュースするくらいのやり手である。

その反田恭平のソロによる今回のシューマン、これも予想を上回る演奏であった。反田恭平のピアノ、今までラフマニノフ3番、ラヴェルの左手しか実演で聴いたことがなく、どちらも技術的には完璧だが表現は可もなく不可もなくといったところであったが、今回のシューマンはなかなかよかったと思う。

最初、舞台に登場したピアノを見てびっくり。ファツィオリである。ファツィオリを実演で聴いたのは、アンジェラ・ヒューイットがピアノを弾いたメシアンのトゥーランガリーラ交響曲、ルイ・ロルティが弾いたリストの2番。ソロでは、今は亡き巨匠アルド・チッコリーニが弾いたドビュッシー。これらの中では、チッコリーニがファツィオリで弾いた地中海的で濃厚な音色が忘れられないが、それ以外はあまり音の記憶がない。

ファツィオリによる今回の演奏、豊かな音量とどっしりした低音、そしてきらびやかな中高音が、巨大な東京芸術劇場の空間に華麗に響き渡る。かなり重厚で風格あるシューマンなので、これはちょっと違うという方もいたかもしれないが、非常に説得力がある表現だったと思う。オーケストラもシンフォニックに鳴っていてとても気持ちがいいが、ピアノの音がとてもリッチなのでピアノの音をかき消すことがない。ソロの存在感が抜群。

アンコールで演奏されたのは、リスト編曲によるシューマンの献呈。本当に素晴らしい曲だ。

 

後半はチャイコフスキー5番。これもまた、予想を上回る素晴らしい演奏であった。

ヴァイグレは旧東ドイツ出身なので、チャイコフスキーの演奏も同じ旧東独の指揮者クルト・ザンデルリンクのような陰鬱な表現なのかと思いきや、全く異なる。ゆったりしたテンポであるがオーケストラを豪快に鳴らして、極めてドラマティックな表現だ。この人、前からこんな演奏していたっけ?と思うぐらいに熱くて奔放な表現だった。タクトなし、暗譜での指揮。豪快でありながら、基本的なフォルムはしっかりとしており、決して感情的になることはない。第4楽章のコーダ前のパウゼはかなり長く感じられた。

オーケストラの技術水準が極めて高く、だだっぴろい東京芸術劇場にもかかわらず音圧は強く音色も濃厚だ。金管セクションは立体感があり迫力満点。木管の美しさも比類ない。第2楽章のホルン・ソロは松坂隼氏。個人的にはもう少し柔らかい音が好きなのだが。

 

どの曲も、最後の音の後に拍手がすぐ起こることがなく、余韻が素晴らしかった。

 

反田恭平効果で客席はほぼ満席であったが、1階後方の私の席から1階平土間を見渡す限り、いつもながらの高齢者が大半。若い女性が多いという感じはしなかった。上のフロアにはいたのだろうか?

 

総合評価:★★★★☆