樫本大進 & キリル・ゲルシュタイン デュオ・リサイタル(サントリーホール、12日)

 

ヴァイオリン:樫本大進
ピアノ:キリル・ゲルシュタイン 

 

プロコフィエフ:5つのメロディー Op. 35bis
フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調
武満徹:妖精の距離
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番 イ長調 Op. 47 「クロイツェル」

(アンコール)

ルドルフ・フリムル:ベルスーズ Op. 50

 

正月早々7日に緊急事態宣言が出されたにもかかわらず、このようなハイクオリティの演奏会が開催されたのは大変にありがたいことである。休憩中にアルコールが飲めない(販売されていたのは水のペットボトルだけ)、かさばる荷物を預けるクロークがない、終演後に食事する場所がないなどの残念な状況ではあるが。

 

樫本大進のヴァイオリン、ベルリン・フィルのコンサートマスターらしく、シルクのような艶やかな音色、精確極まりないテクニック、縦横無尽に拡がる多彩な表現。彼の音色がベルリン・フィルの音色を形成しているのか、あるいはベルリン・フィルに入団して彼の音色が変わってきたのか。おそらく、その両方なのであろう。

その彼が、ロシア出身のキリル・ゲルシュタインと共演した今回の演奏、ホールのせいもあってか軽やかできらきらとした印象であり、後半のベートーヴェンも重厚感よりそうした要素が前面に出ていたと思う。ゲルシュタインのピアノも繊細かつ精緻で、当然ながら単なるピアノ伴奏ではない。フランクもベートーヴェンもピアノが非常に活躍する曲なので、ピアニストがよくないといい演奏にはなりえないのだ。

フランクではヴァイオリン、ピアノともにうねるようで多彩な表現で、なかなか聴いたことがない自由なタイプの演奏であった。

今回非常に興味深かったのは素晴らしい武満作品。初めて聴く曲であるが、なんと1951年の作。1957年の武満のデビュー作、あの「弦楽のためのレクイエム」よりもさらに前の作品だ。とてもロマンティックな作風で、聴いていて私はてっきり最晩年の作品かと思ってしまったぐらいである。ピアノの和声進行を聴いているとメシアンの作品ではないかと思ってしまうぐらい、メシアンからの影響が濃いのに驚いた。

 

アンコールで演奏されたフリムルはプラハ生まれの作曲家で、なんと蒲田行進曲の原作の作曲者とのこと。

 

会場はこの時期ゆえ満員ではもちろんないのだが、ヴァイオリンとピアノのリサイタルとしてはかなり埋まっている。サントリーホールの大ホールでここまで集客できるのは、さすが樫本大進さんである。

 

総合評価:★★★☆☆