NHK交響楽団第1932回 定期公演 Bプログラム1日目を、サントリーホールにて。

 

指揮:ファビオ・ルイージ

ソプラノ:クリスティーネ・オポライス

コンサートマスター:ライナー・キュッヒル

 

ウェーバー/歌劇「オイリアンテ」序曲

R.シュトラウス/4つの最後の歌

R.シュトラウス/交響詩「英雄の生涯」作品40

 

さすが巨匠ファビオ・ルイージ!最近のN響定期のなかでも、傑出した出来映えの演奏だったといえよう。

ファビオ・ルイージは1959年イタリアのジェノヴァ生まれであるが、音楽の勉強もキャリアもオーストリア・ドイツを中心に築いてきただけあって、今回のプログラムのようなドイツ系音楽に長けた指揮者である。2020/2021シーズンから米国テキサス州のダラス交響楽団音楽監督に就任予定であり、今回のN響定期とオーチャード定期の後はダラスに移動して演奏会形式の「サロメ」を振る予定である。私はルイージ&シュターツカペレ・ドレスデン来日公演でカミラ・ニールントがタイトルを歌った「サロメ」を聴いたが、あれは一生忘れられない公演である。

 

1曲目のオイリアンテからして、躍動感あふれる、はじけるような音色!そして、音色とハーモニーの統制がきっちりと取れていて、音に緊張感があるのはこの指揮者ならではだ。ウェーバーはルイージの音楽性にとてもよく合っていて、切っ先鋭いアプローチは胸がすく思いがする。オケは16型。見事な鳴りっぷりである。第2主題の弦の旋律はもうコンマスであるキュッヒル(元ウィーン・フィル コンサートマスター)の音しか聞こえないくらい!さすがキュッヒル、ぐいぐいとオケ全体を引っ張っている。

 

2曲目のシュトラウス「最後の4つの歌」を歌ったのはラトビアの歌姫、クリスティーネ・オポライス。若き巨匠アンドリス・ネルソンスの元妻である。女優のような美貌を持つ彼女、一昨年ローマ歌劇場来日公演「マノン・レスコー」で素晴らしいマノンを演じた。

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しかし今回のシュトラウスの歌唱は、正直いまいち…やはり彼女はプッチーニ、それも舞台で観た方がずっといいのではないだろうか。戦争であらゆる意欲を喪失した最晩年のシュトラウスの諦観やしっとりした情感は、全く聴くことができなかった。14型のオケ、コンマスのキュッヒルの存在感がすごく、普段とは異なった音色が聞こえてくるのはさすが。

 

後半はルイージお得意の「英雄の生涯」。

ルイージの「英雄の生涯」を聴くのは2009年のシュターツカペレ・ドレスデン来日公演、2017年8月の読響特別演奏会に続いてこれが3回目であるが、今回もあまりに素晴らしい演奏であった。

ルイージは毎回、エンディングが静かな第1稿を使用していて、今回も第1稿による演奏であった(シュターツカペレ・ドレスデンとの録音でも第1稿を使用している)。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-10251365353.html

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一方N響の「英雄の生涯」を聴くのは5回目であるが、前回2015年のパーヴォ・ヤルヴィによるB定期(CDになっている)よりも、今回のルイージの演奏の方が断然素晴らしい。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-11992660749.html

 

冒頭のチェロとホルンのEsの音色が重すぎず、軽すぎず、適度に明るい音色!すごいのは、音色が完璧なまでにしっかりとコントロールされているのに、艶やかでしっとりとした味わいがある点だ。これはまさに指揮者、オーケストラ、そしてゲストコンサートマスターの化学反応で、吉と出た結果であろう。

キュッヒルによる「英雄の伴侶」におけるソロ、やや安定を欠いていた(これは今に始まったことではなく、ウィーン・フィル時代から)ものの、リスクを恐れず前に進むその精神と、ウィーン・フィルの音を主導した実績がある、ふくよかな音色はさすがである。この曲でも、キュッヒルの音はN響弦セクションの中で突出して目立っているのである。ちなみに、キュッヒルは2011年5月の定期でも、尾高忠明の指揮でこの曲のコンマスを務めていた。

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「英雄の戦場」におけるルイージのアプローチ、速めのテンポでぐいぐいと進んで行く音楽が快感!舞台裏のトランペットが上手い!

「英雄の業績」の深い味わいがまた素晴らしい。パウゼにおける会場の静けさは、指揮者が作る音の緊張感が客席に波及したものであろう。「英雄の隠遁と完成」、第1稿なので通常のエンディングに向けて盛り上がる音楽とは違い、どんどん沈んで行く内省的な音楽になっている。ちなみにこの第1稿、N響となじみが深い故ヴォルフガンク・ザヴァリッシュも採用していたそうだが、私はザヴァリッシュによるこの曲の実演も録音(フィラデルフィア管)も聴いたことがない。

オケは16型。機能性が高いN響、指揮者に恵まれるとここまでいい演奏をするのである。

 

ルイージは全ての曲を譜面あり、指揮棒なしで演奏。この人、指揮棒を持つ印象だったので、今回全く指揮棒を持たなかったのは意外であった。しかし既に還暦を迎えた巨匠、相変わらずアクションが強烈でむち打ちにならないか心配だ。

 

ところで。昨年8月から簡易表示されてダメになり、一向に元に戻る気配がなかったN響のウェブサイトがやっと更新され、多少マシにはなった。しかしなんぼなんでもひどいのではないだろうか。英語表記も出ないし(私はコンサートのデータベースを英語で付けているので困る)、月刊フィルハーモニーのリンクはエラーが出るし、歴代指揮者や楽団員のプロフィールもないし、アーカイヴへのリンクもない。在京オケのウェブサイトのなかでは最悪であろう。早期に昔のサイトに戻してもらいたいものだ。

 

総合評価:★★★★☆