ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団来日公演を、サントリーホールにて。

 

指揮: パーヴォ・ヤルヴィ

 

ベートーヴェン: 交響曲第4番 変ロ長調 op.60

ショスタコーヴィチ: 交響曲第10番 ホ短調 op.93

(アンコール)

チャイコフスキー:くるみ割り人形〜トレパーク

シベリウス:悲しきワルツ

 

素晴らしい!驚異的に素晴らしい!!!今年のベスト・コンサート決定である。

コンセルトヘボウ管が世界最高のオケであるということを再認識させられるコンサートであった。と同時に、N響で年中聴いているパーヴォ・ヤルヴィが、本当にすごい指揮者だということも再認識させられるコンサートだったのだ。

 

今回の来日、もともとは音楽監督であったダニエレ・ガッティが振る予定であったのだが、彼が#MeToo問題で退任を余儀なくされ、その代役としてパーヴォが選ばれたわけである(よくスケジュールが空いていたな…)ちなみにガッティ、コンセルトヘボウとは和解していて、ガッティとの録音はRCOの自主レーベルからどんどんリリースされているのだが、指揮をすることはやはりない。#MeToo被害者がオケにいるからだそうだ。

 

さて、前半のベートーヴェン4番。パーヴォ・ヤルヴィがベートーヴェンの交響曲のなかで一番好きだと言っている曲である。パーヴォは現代最高のベートーヴェン解釈をする指揮者だと私は思っているのだが、それは彼の手兵であるドイツ・カンマーフィルハーモニーを振った全集録音、映像、そしてみなとみらいホールにおける全曲チクルスが、圧倒的に素晴らしいからである。

しかし今回の4番の演奏は、ドイツ・カンマ—フィルとの演奏とは全く異なるアプローチであった。パーヴォは、オケによって演奏スタイルをフレキシブルに変える指揮者だ。彼はコンセルトヘボウの美質を最大限に引き出す貢献をしたといっていいだろう。ハイティンクの演奏にも通じる、極めてナチュラルな解釈だったのだ。

今、自宅でパーヴォがドイツ・カンマーフィルを振ったベートーヴェン4番を聴いているのだが、もう全然違うアプローチなのだ。ドイツ・カンマーフィルを振った第4楽章のテンポは極端に速いし、それ以外でもアクセントの場所も全然違うし、全体にキレッキレな演奏だ。しかし今回のベートーヴェンは、オケに最大限の敬意を払った指揮で、かなりオケの自発性に任せていたような気がする。

今日の私の席、舞台に近いところだったのだが、このオーケストラはそばで聴いても驚くほど繊細で洗練された音色を奏でる。参考までに、これがウィーン・フィルだとそうはならない。ウィーン・フィルはあまりに至近距離で聴くと音がざらついていることがわかってしまうのだが、コンセルトヘボウとベルリン・フィルに関してはそのようなことはまずないのだ。

それにしてもコンセルトヘボウのベートーヴェンは格別。かつての音楽監督、ベルナルト・ハイティンクと録音したベートーヴェン全集は圧倒的にすごいので、聴いたことがない方はぜひ聴いていただきたい。

なお前半、パーヴォは暗譜での指揮だった。席の関係でよく見えなかったがコントラバスは6、チェロは8、対向配置。

 

後半はショスタコーヴィチ10番。こちらも、驚異的にハイレベルの演奏!ショスタコーヴィチの交響曲のなかでは演奏頻度が高い曲であるが、これだけの演奏はなかなか聴けないであろう。前半のベートーヴェンは指揮者よりもオーケストラの色が強い演奏だったが、後半のショスタコーヴィチは指揮者の色の方が強く出ていたといえる。しかし、オーケストラの音色は極めて上質で品がよく、洗練されていて、そのうえ節度が保たれているのはやはり天下のコンセルトヘボウ!パーヴォの切れの良い指揮と、オケの品格が見事にマッチした演奏だ。

パーヴォ・ヤルヴィのショスタコーヴィチ10番、N響定期でも聴いているけれど、断然コンセルトヘボウの方がいい!

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12249082948.html 

第3楽章の力強いソロを吹いたホルンは、先頃フィルハーモニア管弦楽団から移籍したホルン界のアイドル、首席のケイティ・ウーリーである。

後半の編成は16型。

 

演奏が終わったあと素晴らしい奏者たちを立たせていたパーヴォ、一旦袖に引っ込もうとして何かに気づいて戻ってきた。素晴らしいバスーン奏者を立たせるのを忘れていたのだ。

譜面台に各プレーヤーがアンコールの譜面を置いていたのだが、パーヴォが何かをフォアシュピーラーに伝えて全員がさっと譜面を変え、トレパークとなった。客席の反応を見て、パーヴォのアンコール定番である悲しきワルツの前に1曲加えたということか。

 

オケが去ったあとにパーヴォ・ヤルヴィのソロ・カーテンコールあり。

N響との演奏はややマンネリになっているように感じられるが、この日のような演奏を聴くと、やはりパーヴォはすごい指揮者なのだと痛感する。

 

総合評価:★★★★★