[ポーランド芸術祭2019 in Japan] 参加公演 クリスチャン・ツィメルマン ブラームスを弾く をサントリーホールにて。

 

ブラームス:ピアノ四重奏曲第3番 ハ短調 Op. 60

ブラームス:ピアノ四重奏曲第2番 イ長調 Op. 26

 

クリスチャン・ツィメルマン(ピアノ, Piano)

マリシャ・ノヴァク(ヴァイオリン, Violin)

カタジナ・ブゥドニク(ヴィオラ, Viola)

岡本侑也 (チェロ, Cello)

 

ツィメルマンの来日公演、ソロ・リサイタルやオーケストラとの共演は多いが、室内楽は少なく、2010年のハーゲン弦楽四重奏団とのシューマン以来である。

 

今回はブラームスの3つのピアノ四重奏曲のうち2曲。シェーンベルクがオーケストラに編曲したおかげで最も有名になった1番を除く残りの2曲だ。

 

ツィメルマンのブラームスといえば、若き日にバーンスタイン指揮ウィーン・フィルと録音した協奏曲(1983、1984年録音)に始まり、来日公演におけるソナタなどの独奏曲のいずれもが超高水準の演奏。完全主義で、音色のコントロールが他のどのピアニストよりも巧みなツィメルマンの音楽性は、ブラームスにとても合致しているように思われる。ハーモニーの作り方も完璧で、これ以上ないくらいに絶妙なバランスを保っているハーモニーなのである。

 

今回のピアノ四重奏曲も、ツィメルマンの熟練した完璧なピアニズムと、若き3人の弦楽器奏者の瑞々しい感性が見事な化学反応を起こした、驚異的な水準の演奏となった。ヴァイオリンとヴィオラはツィメルマンと同じポーランド出身の音楽家。そしてチェロは、我らが日本の素晴らしい若手チェリスト、岡本侑也である。岡本のチェロ、実に音色が若々しく新鮮である。この若さで世界的ピアニストであるツィメルマンと共演するというのはすごいことだし、彼の今後のキャリアに大きな影響を与えたに違いない。

直前にキャンセルになったヴィオラ奏者の代役であるブゥドニク、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンの常連であるシンフォニア・ヴァルソヴィアの首席ヴィオラ奏者である。

 

ブラームスのピアノ四重奏曲、後半に演奏された第2番は演奏時間50分という大曲。最後に書かれた第3番は30分程度である。それにしても、このピアノ四重奏曲第2番、第3番を実演で聴くのは、なんと今回が初めてであった。第1番は、シェーンベルク編曲のオケ版を含め10回以上実演で聴いているのだが。第2番は第1番とほぼ同時期に書かれているが、実に牧歌的でのびやかな作風である。

 

ところでツィメルマン、ご存じの方も多いと思うが、演奏中の撮影に関して驚くほどナーバスになっていて、以前のリサイタルでも、演奏を動画に収めてYouTubeにアップする行為に大変心を痛めているというアナウンスが演奏会の前になされたりしたことがある。今回も下記のようなチラシが配布されていたうえにホワイエにも同一内容の看板が立てられ、そのうえレセプショニストが「撮影禁止」の札を持って会場を回るほどの徹底ぶりだった。こうしたツィメルマンの神経質なところがダメだという人も結構いるようだが。もちろん、日本びいきのツィメルマン、日本人でそういう行為をする輩が少ないというのはわかっているのだろうけれど。

 

会場は過半数が女性。ツィメルマンの演奏会だと毎度のことであるが、自分が浮いていることに気付く。ツィメルマンの女性からの人気は圧倒的だ。

 

総合評価:★★★★☆