NHK交響楽団第1912回 定期公演Aプログラム1日目(NHKホール)。

指揮:エド・デ・ワールト

ピアノ:ロナルド・ブラウティハム

 

ベートーヴェン/ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」

(アンコール)ベートーヴェン/エリーゼのために

ジョン・アダムズ/ハルモニーレーレ(1985)

 

オランダの中堅指揮者エド・デ・ワールトも、既に77歳。寺西基之先生がフィルハーモニー誌のプロフィールに書かれている通り、同じオランダ人指揮者ベルナルト・ハイティンクに比べてもはるかに地味な存在である。ハイティンクは、かつて「地味」という評価が定着していたが、実演を聴いてみるとその演奏は堅実でこそあれ、決して地味ではない。

ワールトは現在、ニュージーランド交響楽団の音楽監督を務めている(2016〜)。ちなみにその前任は、現在の日本フィル首席指揮者ピエタリ・インキネンだ。

 

さて今回のプログラムの前半は、ピアノフォルテ演奏の大家であるロナルド・ブラウティハムが弾く「皇帝」。

私は鍵盤楽器に関して、ハープシコードやピアノフォルテなどの古楽器演奏にはあまり興味がなかった。表現力の幅広さという点で、モダンピアノが一番だと思っているからである。しかし最近、クリスティアン・ベザイデンホウトのピアノフォルテやジャン・ロンドーのハープシコードを聴いて少し考えが変わってきた。古楽器自体が「進化」したのかどうかわからないのだが、古楽器でもモダン楽器に引けを取らない生き生きとした音楽表現は、演奏者によっては十分可能なのだということがわかってきた。何より驚くのは、古楽器奏者がモダン楽器を演奏した場合の表現力が、最初からモダン楽器を演奏している演奏家より優れているケースが見受けられることである。これは、アーノンクールを始めとする古楽系指揮者が1980年代からモダンオーケストラの分野を席巻してきたことからも想像できよう。

今回、モダン楽器であるスタインウェイを弾いたブラウティハム、一切の虚飾を排し、手堅いながら実に味わいのある素晴らしい演奏で、細部に至るまで表現が彫琢されていることに驚かされる。第2楽章の美しさは比類なく、格調高さと端正なみずみずしさにあふれた佳演。

オーケストラは12型、控えめにソリストに寄り添うタイプの演奏である。

アンコールはなんと懐かしい「エリーゼのために」。こちらも、特段の演奏効果を求めることなく、淡々とした演奏だ。

 

後半はアメリカの作曲家ジョン・クーリッジ・アダムズ(1947〜)の代表作であるハルモニーレーレ(1985)。今回の指揮者エド・デ・ワールトがサンフランシスコ交響楽団の音楽監督であった時代に、彼の指揮で初演されている。

ジョン・アダムズ、ついこの間3月にドゥダメルとロサンゼルス・フィルの来日公演で新作のピアノ協奏曲” Must the Devil Have All the Good Tunes?”がユジャ・ワンにより演奏されたのだが、これは不発だった。やはりジョン・アダムズは、今回のハーモニーレーレのような1980年代の意欲的な作品がよい。わずか5分足らずの”Short Ride in a fast Machine”(1986)はスーパーカーで西海岸のハイウェイを疾走するかのような快感がある。

 

 

 

ハーモニーレーレは3楽章から成る純粋なオーケストラ作品。アダムズの作品は、軽快なリズムに乗って様々な楽想が浮かんでは消えるというものが多いが、ハーモニーレーレもそうした楽曲である。第2楽章の最後には、マーラーの交響曲第10番の、あのトランペットに誘導された不協和音に似た音楽が現れる。

この精緻で長大な音楽を完璧に演奏したN響はやはりさすがとしかいいようがないが、金管の抜けの良さはさすがにアメリカのオーケストラに一歩譲る。

 

総合評価:★★★☆☆