パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団の来日公演を、東京オペラシティコンサートホールにて。

Vn:ヒラリー・ハーン

 

モーツァルト:歌劇『ドン・ジョヴァンニ』序曲

J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 BWV1041

J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲第2番 ホ長調 BWV1042

(アンコール)

J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番 ホ長調 BWV1006 より第2楽章「ルール」、第6楽章「ブーレ」

 

シューベルト:交響曲第8番 ハ長調 D944《ザ・グレート》

(アンコール)

シベリウス:悲しきワルツ

 

N響首席指揮者であるパーヴォ・ヤルヴィが2004年から芸術監督を務めるのがドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン。彼の経歴のなかでも、最も在任期間が長いオーケストラがこのオケなのである。それだけ、このオーケストラとは相性がいいということなのだろう。実際、私もパーヴォの演奏をいろいろなオーケストラで聴いているけれど、やはりこのドイツ・カンマーフィルハーモニーとの共演が最も面白いし、スリリングなのだ。

今回の来日公演は、シューベルトとハイドンの交響曲がメイン。残念ながら私は今回の演奏会しか行けないのであるが、他日公演ではシューベルトの5番、ハイドンの101番「時計」、104番が演奏されたようだ。これら全てが聴けなかったのは非常に残念。

 

冒頭に演奏されたドン・ジョヴァンニ序曲、予想通りかなり硬く重い響きで始まり、徹頭徹尾重量感を保ったまま終わった。フルトヴェングラーやカラヤンなどの、かつての巨匠の演奏とももちろん違う。ピリオド奏法を採り入れているものの、例えばハーディングのような快速テンポの軽めの音とも違うところが特徴的だった。

 

続いて演奏されたのは、先週素晴らしいバッハの無伴奏ソナタとパルティータ全曲を同じ東京オペラシティコンサートホールで聴いたばかりのヒラリー・ハーンによる、やはりバッハのヴァイオリン協奏曲。無伴奏のあの完璧で全く隙がない演奏に比べると、オーケストラと一緒に演奏するハーンのバッハは、くだけていると言ったら言い過ぎだろうか。オーケストラのごつごつしていて、かつ密度が極めて高い弦の音の中に混じると、ハーンの音は方向性が違うなと感じる。やはりハーンのバッハは無伴奏が一番いい。実際、アンコールで演奏された無伴奏の2曲はやはりあまりにも素晴らしかった。

 

後半はシューベルトのザ・グレート。

いわゆる優雅なシューベルトとはほど遠い、このオケらしいゴツゴツとした手触りの重量感あふれる演奏であり、まるでベートーヴェンのような表情の音楽に仕上がっている。彼らのシューベルトを聴くのはこれが初めてであるが、この演奏は他のどのシューベルト演奏とも一線を画する、非常にユニークなものだろう。それにしても、弦がせいぜい8型程度にもかかわらず強靱で叩きつけるような音がするのには、本当に驚いてしまう。

ホルンとトランペットは通常のモダン楽器を使用していたし、弦も普通にヴィブラートをかけていたのだが、出てくる音は実に濃密である。

第3楽章、途中で木管楽器が大きく乱れたのだが、一体なにがあるとああなるのだろう。いずれにしても、このオケのメンバーはリスクを恐れずに前のめりの演奏をするところがすごくいい。

昨年パーヴォがN響と演奏したザ・グレートとは、まるでスタイルが異なる演奏であった。パーヴォはオケの性質や規模によってアプローチを変えるタイプの指揮者だ。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-12288961646.html 

ただ、このドイツ・カンマーフィルとのシューベルトが自分の好みかと言われるとさにあらず。パーヴォ・ヤルヴィとドイツ・カンマーフィルの演奏、ベートーヴェン、シューマン、ブラームス、シューベルトと聴いてきたのだが、個人的にはベートーヴェンが圧倒的に素晴らしいと思っている。

 

オケのアンコールは十八番の悲しきワルツ。このオケの暗い音色がこの曲に意外なまでにマッチしている。最弱音はもうほとんど聞こえないほど繊細な音だ。

 

総合評価:★★★★☆