サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団定期演奏会を、フィルハーモニー(ベルリン)にて。曲目はマーラーの交響曲第6番イ短調のみ。

 

サイモン・ラトルがクラウディオ・アバドの後任としてベルリン・フィルの音楽監督に就任したのは2002年。もう、そんな前になるのだ。そのラトルが、この2017/2018シーズンをもって音楽監督を引退する。今回は、その最後の定期演奏会であり、今回の私の旅行の主目的だ。

ラトルがベルリン・フィル・デビューを果たしたのは31年前、1987年11月の定期演奏会で、そのときの曲目がこのマーラーの6番だった。まだカラヤンが生きていた時代のベルリン・フィルである。

そのときの演奏はNHKFMで放送され、学生だった私もそれをエアチェックして何度も聴いたものである。当時としてはテンポがかなり速く(演奏時間は80分を切っていた)颯爽としていて、カラヤン時代のベルリン・フィルの驚異的に重厚なサウンドを活かしながらも、当時誰もしていなかったような新鮮な解釈を披露したのだった。現在では極めて多くの指揮者が採用している、第2楽章アンダンテ、第3楽章スケルツォという順番も当時としては画期的だったと記憶する。

http://tower.jp/item/2126231/MAHLER%EF%BC%9ASYMPHONY-NO-6-(11-14-15-1987)%EF%BC%9ASIMON-RATTLE(cond)-BPO 

ラトル氏が2016年に来日したとき、幸運にも彼と話ができる機会があり、あなたのデビューのマーラー6番は鮮烈だったと話したら、大昔の話だよ、自分の最終公演も実はマーラー6番なんだと教えてくれた。ラトル氏にとって、それだけ非常に思い入れが深い曲なのだろう。今回のリハーサルでは、「31年前に自分の指揮で弾いた人いますか?」と挙手させたそうだ。

 

さて今回の演奏。強烈である!席が1階の7列目ということもあって、音圧は半端ではなく、ちょっと疲れてしまった…やはり、ベルリン・フィルは音がでかいのである。

以前のラトルの演奏に比べると、第2楽章の静かな部分における濃厚な表現などを聴くと、彼もやはり年齢を重ねて円熟してきているのだなあと感じる一方、自らの卓越した瞬発力と、オケの高い解像度を駆使して驚くほど鮮やかな表現を見せるのは従来通りである。

第1楽章では、提示部2回目の冒頭のチェロによるリズムをほとんど聞こえないぐらいに音を絞り、提示部第2主題(アルマの主題)は2回目の方を豊麗に歌わせていた。第2楽章はシュテファン・ドールのホルンがあまりに素晴らしい!英雄的なフォルテももちろん素晴らしいが、あまりに繊細な弱音には思わず息を呑む。ともすると流して演奏されることも多い第3楽章スケルツォは、今回の演奏の中では出色。フィナーレへの導入のためのスケルツォ、という位置付けを明確にした解釈であり(だからこそ第3楽章なわけである)、実に活きがよくてメリハリのある表現だ。最終楽章のパワーもすごいのだが、ベルリン・フィルにしてはややアンサンブルの精度が落ちてしまって、雑な部分も目立つ。実は午前中のゲネプロを聴かせていただいたのであるが、ラトルは第1楽章〜第3楽章までは通し(部分的に止めて指示を出していた)、第4楽章は冒頭だけで終了してしまった。それが影響したのかどうかはわからないが。

弦セクションはなんと18型(第2ヴァイオリンのみ1名欠いて15名)!第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンは対向配置であるが、ヴィオラを左手、チェロとコントラバスを右手に置く配置だ。18型だとさすがのフィルハーモニーでも舞台はもういっぱいで、第1ヴァイオリンに9プルト配置するスペースがないそうで、2プルトのみ3名ずつになっていた。

それにしても、ベルリン・フィルのコントラバス10人はさすがに大迫力だ。ただ、18型にもかかわらず音が混濁せず、高解像度を維持していたのはさすが天下のベルリン・フィルである。

第1ヴァイオリンのエキストラには、N響第1ヴァイオリンの横溝耕一氏、シモン・ボリヴァル・ユース・オーケストラのコンサートマスターもいる。オーボエの4番には、現在ベルリン・フィル・アカデミーに在籍する東京フィルの荒川文吉氏の姿が。

 

首席メンバーはわかる範囲では下記の通り。

コンサートマスター:ダニエル・スタブラヴァ

第2ヴァイオリン:トーマス・ティム

ヴィオラ:アミハイ・グロース、マテ・スーチュ、清水直子

チェロ:ルートヴィヒ・クヴァント

コントラバス:マシュー・マクドナルド、ヤンネ・サクサラ、エスコ・ライネ

フルート:マチュー・デュフォー

オーボエ:ジョナサン・ケリー

クラリネット:ヴェンツェル・フックス

ファゴット:ダニエレ・ダミアーノ

ホルン:シュテファン・ドール

トランペット:タマーシュ・ヴァレンツァイ

トロンボーン:クリストハルト・ゲスリンク

チューバ:アレキサンダー・フォン・プットカマー

ティンパニ:ライナー・ゼーカース

 

第4楽章が終わったあとは静寂が支配し、ラトルが指揮棒を下ろしてもなおしばらく会場がシンとしていた。その後は盛大な拍手が続き、ラトルがマイクを持って感謝の念を述べたが、オケが引いた後さらにソロ・カーテンコールあり。

なおこの日の演奏は

http://www.deutschlandfunkkultur.de/simon-rattles-abschied-von-den-berliner-philharmonikern.1091.de.html?dram%3Aarticle_id=420409

で聴けます。

 

総合評価:★★★★☆