新国立劇場開場20周年記念特別公演 ベートーヴェン「フィデリオ」(新制作、初日)。
指揮:飯守泰次郎
演出:カタリーナ・ワーグナー
ドン・フェルナンド:黒田博
ドン・ピツァロ:ミヒャエル・クプファー=ラデツキー
フロレスタン:ステファン・グールド
レオノーレ:リカルダ・メルベート
ロッコ:妻屋秀和
マルツェリーネ:石橋栄実
ジャキーノ:鈴木 准
囚人1:片寄純也
囚人2:大沼 徹
東京交響楽団
新国立劇場合唱団(合唱指揮:三澤洋史)
かのリヒャルト・ワーグナーのひ孫にしてバイロイト音楽祭総裁・演出家のカタリーナ・ワーグナーによる新制作演出「フィデリオ」。今日はその初日である。
なんでも、バイロイト現地の音楽祭友の会(私も会員です)の役員たちがこのプルミエを観に来ていたそうである。
まずはそのカタリーナ演出について。初日ゆえ、これからご覧になる方々も多いのでネタばらしは避けるが、私がバイロイトで観たカタリーナ演出の「ニュルンベルクのマイスタージンガー」「トリスタンとイゾルデ」に比べたら、いい意味でややおとなしく、ドイツでよくある普通に尖った演出である。保守的な日本人のオペラ客向けに少し「手加減」したのだろうか?
とはいえ、第2幕、レオノーレ序曲第3番から後の展開にはさすがにちょっとびっくりしたし、なんともやりきれないままオペラが終わるのだ…しかし、現実の歴史ではほとんどがこういう結末であることは疑う余地がない。そういう意味でも、私は今回のカタリーナの演出にはそれほどの違和感を持っていない。
それにしても、新国立劇場で終演後の最初の拍手がこれほど弱かったのは初めてかもしれない。戸惑ってしまって、どう反応したらいいかわからない、というところである。予想通りブーイングも飛び出していて、そのブーイングはカタリーナが舞台に現れるとさらに強くなったから、これは明らかにカタリーナに対して向けられたものであろう。
少しだけ演出内容について触れると、レオノーレがフィデリオになり、逆にレオノーレになる場面では着替えシーンがある。舞台は三層(見方によっては四層)になっていて、第1幕、第2幕とも舞台転換はなくこの三層の舞台が上下するというもの。
さて、歌手は主役の2名がやはり圧倒的に素晴らしい。一切歌わない第1幕でも地下牢でずっと演技をしていたフロレスタン役グールドの、英雄的で太く張りのある声はやはり魅力的だ。レオノーレ役メルベート、いつもながらややキンキンするところがあるものの強靱な声で抜群の存在感がある。
ドン・ピツァロ役クプファー=ラデツキーは低音の伸びが今一つだったが、先日のチョン・ミョンフン指揮東京フィルの演奏会形式でもこの役(ルカ・ピサローニ)はそう聞こえたので、結構難しいのかもしれない。普段安定した歌唱を聴かせるロッコ役妻屋秀和もちょっと迫力に欠ける。日本人歌手で一番光っていたのはマルツェリーネ役石橋栄実で、明るい声質ながら軽すぎず、適度な重みがあったのがベートーヴェンの音楽に合っているといえよう。
オーケストラは東京交響楽団。ワーグナーだと薄さを感じてしまうことも多いこのオケであるが、ベートーヴェンのような古典はさすがにとても上手い。高さのある舞台ゆえ、舞台上の高いところでの歌手の歌はピットで聞こえづらいはずであるが、初日にもかかわらずしっかりと合わせていた。
飯守氏の指揮、テンポはやはり遅め。先日のチョン・ミョンフンのフィデリオと比べると相当遅く感じられる。第1幕は特にちょっと中だるみ感があったし、第2幕、ドン・ピツァロがフロレスタンに詰め寄るところなど、もう少し緊迫感が欲しいところ。
もっとも今日は初日ゆえ、今後いろいろな点で改善されていくであろう。
14時開演で17時ごろに拍手が終わった。途中休憩は30分だったが、これは第1幕にも出ずっぱりであったグールドのために5分延ばした結果だそうだ。
総合評価:★★★☆☆