いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2018 5月5日公演。

この日も晴れ。結果として滞在中ずっと晴れだった。やや風が強い。

 

(C32)石川県立音楽堂コンサートホール

ヘンリク・シェーファー(指揮)

ライナー・キュッヒル(ヴァイオリン)

オーケストラ・アンサンブル金沢

モーツァルト:

ヴァイオリン協奏曲 第5番「トルコ風」(キュッヒル弾き振り)

シューベルト:交響曲 第7番「未完成」

 

前半はキュッヒルが弾き振り。45年にわたってウィーン・フィル、そしてウィーン国立歌劇場管のコンサートマスターとして彼らを牽引してきたキュッヒルの存在感はやはりすごいものがあって、「おれに付いて来い」という強烈なリーダーシップが感じられる。正直、だいぶ前から音程はちょっと怪しくはなっているのだが、そういうことを感じさせない迫力がある。

前半は第1第2ヴァイオリンが両翼、ヴィオラが右手奥、チェロとコントラバスが左手奥。

 

後半の未完成、今回の音楽祭では珍しいモーツァルト以外の作品であるが、これが予想を上回る名演だった。指揮者のヘンリク・シェーファー(1968〜)はスウェーデン、イェーテボリ歌劇場音楽監督。

エネルギッシュな質感と静寂のバランスが見事で、OEKが非常にいい仕事をしている。指揮者とオケの相性もいいのかもしれない。

後半はヴァイオリン両翼は変わらなかったが、ヴィオラが左手、チェロとコントラバスが右手に移動していた。

(総合評価)★★★☆☆

 

(H32)石川県立音楽堂邦楽ホール

アグニエシュカ・ドゥチマル(指揮)

シン・ヒョンス(ヴァイオリン)

アマデウス室内オーケストラ

モーツァルト:

ディヴェルティメント K.137

ヴァイオリン協奏曲 第3番

キラール:オラヴァ

(アンコール)

ロッシーニ:歌劇「ウィリアム・テル」序曲〜行進曲

アンダーソン:プリンク、プランク、プルンク

 

アマデウス室内オーケストラ、初めて聞く名前の団体であるが、1968年、女性指揮者アグニエシュカ・ドゥチマルによってポーランドのポズナニで設立されたオーケストラである。

弦楽のみの団体で、6-6-4-3-1という小さい編成。

ディヴェルティメント、弦の音が非常に柔らかくまろやかなのが特徴的だった。

 

日本人の管楽器奏者がエキストラとして加わった2曲目、ソリストは韓国のシン・ヒョンス。2008年ロン・ティボー国際コンクールの優勝者である。

彼女の演奏を聴くのは5年ぶりだが…やはり、美し過ぎる!正直、演奏姿に目が釘付けになってしまった。その演奏、やや線が細いが相変わらず完璧な音程とフレージングだ。最近日本での演奏会が少ないと思っていたら、3日には福山でリサイタルがあったようだ。

 

最後の曲はヴォイチェフ・キラール(1932〜2013)のオラヴァ(1988)。同じフレーズが延々反復されるわかりやすい音楽であり、最後は楽員のかけ声で終わる。LFJでもそうだが、こうした演奏効果が高い現代音楽に対する会場の受けは非常によくて、今回もこのキラール作品に対する聴衆の反応が非常によかったのは印象的だ。

 

アンコール2曲。地味なイメージの団体だと思っていたのだが、このアンコール2曲で彼らのエンターテイナー性が発揮され、特にピツィカートのみで演奏されるアンダーソンの「プリンク、プランク、プルンク」は、特殊な演奏法もあって会場が沸きに沸いた。コンサートマスターの後ろの男性奏者は、その特殊な奏法に合わせてコンサートマスターのはげ頭をつるりとなでたり。いや、さすがである。

総合評価:★★★★☆

 

(C33)石川県立音楽堂コンサートホール

リッカルド・ミナーシ(指揮)

ヴェンツェル・フックス(クラリネット)

ザルツブルク・モーツアルテウム管弦楽団

モーツァルト:

交響曲 第35番「ハフナー」

クラリネット協奏曲

(アンコール)プッチーニ:歌劇「トスカ」〜星は光りぬ

 

今回の音楽祭の白眉と言って良い公演!

前半のハフナー交響曲、冒頭の2オクターヴ跳躍するDの音が、どちらもクレッシェンドされるという新解釈。モーツァルトもベートーヴェン同様、まだまだ演奏解釈によって新しい側面を発見できるのだと痛感した。ティンパニの使い方が実に巧みで、終楽章ではまるで雷鳴を思わせるような響きが演出されていたのに驚く。

後半はベルリン・フィル首席奏者であるヴェンツェル・フックスが吹くモーツァルトのクラリネット協奏曲。この演奏には完全にノックアウトされてしまった!音色に関しては前日に聴いたクラリネット五重奏曲同様、深みと温かさとコクがある素晴らしいものであり、何よりすごいのは彼が絶妙に吹き分ける弱音である。

モーツァルトの晩年の作品、表面的には長調で明るい音楽でも、たまに翳りがふと見え隠れする。フックスのクラリネットの、フレーズの最後ですっと静かに消えていく音、その一瞬の瞬間に悲しい表情が見えるのだ。その弱音で悲しみが表現されるたびに、会場の空気がぴんと張り詰めるのが手に取るようにわかった。特に第2楽章の美しさは絶品!

アンコールで演奏されたプッチーニも痺れた。どういう鍛錬をすればこんな繊細な音が出せるようになるのか。いや、もう天才にしかできない業かもしれない。すでに、神の領域である。

(総合評価)★★★★★