NHK交響楽団第1884回 定期公演 Bプログラムをサントリーホールにて。
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
ベートーヴェン/交響曲 第8番 ヘ長調 作品93
ベートーヴェン/交響曲 第7番 イ長調 作品92
あらゆる人間にとって死は平等に訪れるものであるが、「老い方」は決して平等なものではない。90歳の(この7月11日で91歳になる)ブロムシュテットのような老い方ができたら、どんなに幸せであろうか?彼の若さあふれる演奏を聴くといつもではあるが、今日もその思いを強く持った。そして、毎度のことであるが…明日から私もブロムシュテットのようなヴィーガンになろうと思うのだが、これはまず不可能である。
N響の定期会員の平均年齢は年々上がっていて、休憩時間はまるで老人ホームにいるかのようであるが、ひょっとしたら指揮者のブロムシュテットが、今日の会場であるサントリーホールのなかで最も元気な老人だったかもしれない。
そのブロムシュテットとN響によるベートーヴェンの8番と7番。
どちらも、信じられないほどの若さがみなぎる演奏である。特に7番冒頭の和音の鳴りの良さには驚かざるを得ない。
ブロムシュテットの演奏は、年齢を重ねるにしたがってなぜかますます若返って来たのであるが、ここ2、3年は運動能力の低下もあるのだろう、テンポが速く清新な表情のなかにもそれなりにまったりとした円熟味を感じさせるようにはなってきている。
しかしその一方で−−−晩年のスクロヴァチェフスキもそうだったのだが———この年齢になって随所に新しい解釈を採り入れているのが驚きであり、かつ尊敬できるところなのだ。
例えば、7番の第2楽章のタータッタターターというリズムで、後半のターターのところで音を弱めたり、第3楽章のトリオの最後の部分(プレストに戻る直前のところ)、ホルンの2番が象徴的なフレーズを奏でる部分でかなりのリタルダンドをかけてじっくりと歌わせたりするところは、今までのブロムシュテットの演奏ではなかった手法である。2015年に録音されたライプツィヒ・ゲヴァントハウス管との録音でもここまではっきりと聞き取ることはできなかった。
http://tower.jp/article/feature_item/2017/09/05/1101
第2楽章最後から4小節前、第1ヴァイオリンのEの音はピツィカート。ブロムシュテットの7番、2012年のバンベルクとの来日公演でも確かここは同じ解釈で、初めてこのような解釈に触れて驚いた記憶がある。
これはベーレンライター版で、直前のC音にarcoの表記があり、E音の次のFis音にまたarcoの表記があることから、間のE音をピツィカートで弾くべきという解釈なのだろうか?ブロムシュテット以外の実演でこれと同じ解釈を聴いたことがあるはずだが、誰の演奏か忘れた。録音では、ズヴェーデン指揮ダラス響は同じ解釈であった。
オーケストラは弦が14-14-10-8-6の対向。前半は2管、後半は2管だがホルンのみ4管に増強。管は多少の粗さがあり、弦は普段のN響らしくなくやや上滑り感があるのは気のせいだろうか。
今回のN響機関誌「フィルハーモニー」、沼野雄司氏による7番の解説が非常に興味深い。ベートーヴェンは戦時中、経済的理由からピアノ三重奏を伴奏にした民謡の編曲をしていたのだが、そのなかの「25のアイルランド歌曲集」第5曲が7番第2楽章に、「12のアイルランド歌曲集」第8曲が7番第4楽章に似ているというのだ。実際、NMLで試聴してみたところ、まあ言われればわかる程度ではあるが、確かに似ている。ベートーヴェンが自らアイルランド民謡を7番の交響曲に採り入れたのか、あるいは無意識のうちに影響されていたのかはわからないが。それにしても、ベートーヴェンが民謡の編曲などという仕事をしていたとは全く知らなかった…当時は映画音楽もないので、そういう仕事の収入を生活の足しにしていたのだろう。
前回の4番もそうだったが、ドレスデンとの録音に比べるとテンポは相当速い。シュターツカペレ・ドレスデンとのベートーヴェン交響曲全集(1975年〜1980年録音)と、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管とのベートーヴェン交響曲全集(2014年〜2017年録音)における8番、7番の演奏時間を比較すると、下記の通りとなる。これも時代の流れだろう。ご参考まで。
(8番)ドレスデン 10’02” 3’56” 4’47” 7’50” ライプツィヒ 8’50” 3’58” 4’35” 7’28”
(7番)ドレスデン 13’31” 9’57” 9’45” 9’03” ライプツィヒ 14’33” 8’15” 8’56” 8’54”
上記のうち、楽章によっては古いドレスデン盤の方が短いのであるが、7番の1楽章については、ドレスデン盤は提示部のリピートを行っていないため演奏時間が短くなっているのである。テンポは聴いた瞬間にドレスデン盤の方が圧倒的に遅い。
ブロムシュテットによるN響4月定期は今日で終了、恒例の花束贈呈となった。次回は10月、ベートーヴェンは6番で、それ以外はモーツァルト39番、ブルックナー9番、ハイドン104番、マーラー1番!
総合評価:★★★★☆
