東京交響楽団東京オペラシティシリーズ 第102回。

 

指揮:飯森範親

ピアノ:マーティン・ジェームズ・バートレット

 

 

ワーグナー:歌劇「恋愛禁制」序曲

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲 第3番 ハ長調 作品26

(アンコール)シューマン:子供の情景〜見知らぬ国と人々について

ベートーヴェン:交響曲 第7番 イ長調 作品92

 

本公演の指揮者は元々、次の土曜日の定期を振る予定のマーク・ウィグルスワースだったのだが、「イングリッシュ・ナショナル・オペラ音楽監督の契約期間中の退任に伴う、契約上のスケジュール調整のため」キャンセル。代役となったスペイン・バルセロナのリセウ大劇場音楽監督ジュセップ・ポンスは、急病のためドタキャン。最終的に東響正指揮者飯森氏が振ることになった。曲目、ソリストは当初発表通り。

 

1曲目はめったに演奏されないワーグナーの「恋愛禁制」序曲。

ワーグナーが完成したオペラのうち、初期の3作品———妖精、恋愛禁制、リエンツィ———については、習作として位置づけられバイロイト祝祭劇場では上演されない。このため演奏頻度は後の作品に比べると非常に低いものとなっている。バイロイトでは、ワーグナーの生誕200周年である2013年には珍しくこの3作品が上演されたのだが、会場はバイロイト祝祭劇場ではなく市の体育館だった。

この「恋愛禁制」序曲、全編にカスタネットの音が印象的な軽いノリの作品なので、後期のワーグナー作品を知るものにはちょっとびっくりな音楽である。私はジュゼッペ・シノーポリ指揮シュターツカペレ・ドレスデンのCDを好んで聴いているが、今日の演奏は会場のせいか、CDで聴く音に比べるとちょっと音が混濁して重く感じられてしまったのが残念。

 

2曲目のプロコフィエフを弾いたのは、今回初来日となる英国の若手ピアニスト、マーティン、ジェームズ・バートレット。なんとまだ21歳の若さであるが、この人のピアノが素晴らしかった。テクニックの完璧さはもちろんだが、音の色合いが非常に濃厚で、そのうえ繊細なのである。とても21歳とは思えない完成度のプロコ3番。オケの木管群との音の溶け合いも見事だった。世界にはすごいピアニストが続々登場していることを実感。

アンコールで弾かれたシューマンは、プロコフィエフとは対照的に、意外なまでに軽く、あっさりと薄口の演奏だった。

 

後半のベト7。この曲のような古典の人気曲をやると、日本人指揮者と日本のオケは、当たり前にそつなく素晴らしい演奏をする。

颯爽としたテンポですいすいと進んで行くのは、今やこの曲の演奏では常識だ。かつて、フルトヴェングラーに代表される20世紀に活躍した指揮者たちは、第2楽章や第3楽章中間部をかなりのスローテンポで演奏したものである(トスカニーニやカラヤンはその中ではかなり速めだったが)。これが、カルロス・クライバーがこの曲を取り上げたあたりから快速テンポで演奏するのが人気になっていって、小澤征爾もかなり速かったし、ギーレンなんかも速め。そして、ベーレンライター版が主流となった今日では、遅いテンポを採る指揮者はほとんどいなくなってしまったと言ってよいだろう。

今日の演奏は大変な熱演で、オケのメンバーが実に楽しそうに弾いているのが印象的だった。第1楽章と第2楽章、第3楽章と第4楽章がそれぞれアタッカ。座席のせいか、金管がかなり強めに聞こえてきたのだがこれも指揮者の演出なのだろうか。

 

総合評価:★★★☆☆