新日本フィルハーモニー交響楽団、♯585 ジェイド <サントリーホール・シリーズ>。

 

タン・ドゥン:オーガニック3部作

Tan Dun’s Organic Music Trilogy

水の協奏曲 ~ウォーター・パーカッションとオーケストラのための~*

Water Concerto for water percussion and orchestra*

紙の協奏曲 ~ペーパー・パーカッションとオーケストラのための~◆

Paper Concerto for paper percussion and orchestra◆

【日本初演】

大地の協奏曲 ~セラミック・パーカッションとオーケストラのための~*◆★ 

Earth Concerto for ceramic percussion and orchestra*◆★

 

指揮        タン・ドゥン

Tan Dun, conductor

パーカッション    ベイベイ・ワン*

Beibei Wang, percussion*

パーカッション    藤井はるか◆

Haruka Fujii, percussion◆

パーカッション    ジャン・モウ★

Zhang Meng★

パーカッション    柴原 誠(新日本フィル打楽器奏者)★

Makoto Shibahara(NJP percussion)★

 

作曲家で指揮者のタン・ドゥン(譚盾、1957〜)は中国湖南省の生まれで、米国を拠点に活躍する作曲家である。

今回演奏されたのは、打楽器とオーケストラのための3部作。水の協奏曲が1998年、紙の協奏曲が2003年、そして大地の協奏曲が2009年の作である。

いずれもタン・ドゥンらしい、極めて独創的でオリジナリティに満ち、はつらつとしたリズムと、幻想的な中国風のメロディが共存し、聴いたことがないような楽器の使い方や音色に満ちた作品である。

 

冒頭に演奏された水の協奏曲は、打楽器奏者(ベイベイ・ワン)が2つの透明なボウルに入った水の音を出したり、その水に木魚のような木の物体を浮かべてそれを鳴らしたり、とても出てくる音は幻想的で神秘的だ。この曲はタン・ドゥンが影響を受けた武満徹に捧げられている。

 

15分の休憩の後は紙の協奏曲。ホール天井からワイヤで吊された3枚の紙——真っ白な、長い掛け軸が天井から吊されていることを想像していただければよい——を、3人の打楽器奏者(中央が藤井はるか)が叩いたり揺らしたりして音を出すが、それ以外にもボール紙のようなものをぱたぱたさせたり、紙を破ったりと、紙の音が楽器と化しているのが面白い。全4楽章から成り、第4楽章は熱狂的な曲想で、この曲が一番演奏効果が高いと言えるだろう。

ヴァイオリン奏者が、ホールの客席、LB、RB、LC、RC、LD、RDブロック、そして2階センターにもいただろうか、それぞれ2名ずつ配置されてホール全体が共鳴するかのような錯覚に陥る。

 

更に15分の休憩の後、タン・ドゥンが通訳とともに登場、3つの曲の解説を簡単にしたのだが、新日本フィルの創設者である小澤征爾にまで言及。タン・ドゥンは小澤にタングルウッド音楽祭で指揮を教わったそうだ。

 

最後の曲の演奏を、小澤さんの健康にと言って大地の協奏曲へ。

 

3人の打楽器奏者が舞台前方指揮台の左手に並んで座り、陶器をいくつも叩いて音を出し、指揮台のすぐ左横にジャン・モウがホラ貝のような陶器に息を吹き込んで音を出すのだが、これがまた日本の尺八に似ているような似ていないような、なんとも幻想的で懐かしさを覚える音なのだ。

この曲は「マーラーの大地の歌に敬意を表して」、という副題があり、マーラー「大地の歌」の李白による原詩の4つの楽章のうち、3、1、5楽章に呼応しているということだ。といってもマーラーの音が聞こえるわけではないのだなあ、と思っていたら、最終楽章になってやっと、かなり長い時間「大地の歌」第5楽章のオマージュをはっきりと聞き取ることができた。やはりマーラーの音楽は素晴らしい…

この大地の協奏曲でも、やはり客席に弦楽器が配置されていたのは紙の協奏曲と同じ。

 

オケはとてもいい仕事をしていたが、譜面をぱたぱたとめくる音、ハミング、かけ声など通常の奏法以外の仕事もしていたのは大変ではあろう。

 

タン・ドゥンの指揮はとても明快で力強い。前にN響定期で、この人がストラヴィンスキーの「火の鳥」を振ったとき、あまりに明晰で全ての音が聞き取れることに驚愕したことがある。

https://ameblo.jp/takemitsu189/entry-11537384326.html

 

この日の演奏会、在京オケの定期演奏会としては驚くほど客の入りが悪く、せいぜい半分強と言ったところだろうか。しかしこういう意欲的なプログラムをやってくれるのは本当にうれしいことであるし、補助金をもらうオケの使命でもある。

各曲30分程度、休憩2回(各15分)にタン・ドゥンの解説まであったので、14時開演で終演は16時半近かった。

 

総合評価:★★★☆☆