トゥガン・ソヒエフ指揮 トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団来日公演(サントリーホール)。

 

グリンカ:オペラ『ルスランとリュドミラ』序曲

ハチャトリアン(ランパル編):フルート協奏曲(フルート:エマニュエル・パユ)

(アンコール)ドビュッシー:シランクス

チャイコフスキー:バレエ音楽『白鳥の湖』から

(アンコール)ビゼー:カルメン 第1幕への前奏曲

 

昨日一昨日同じ会場でニューヨーク・フィルを聴いたばかりだが、今日はフランスのトゥールーズのオケを鑑賞。クラシック音楽ファンにとって、東京はなんと贅沢な街なのだろうか。

 

ロシアの天才指揮者、トゥガン・ソヒエフがこのオケのシェフになってもう10年以上になるそうだ。私はソヒエフの演奏を10回以上、このオケ、N響、そして彼がシェフを務めていたベルリン・ドイツ響で聴いてきたが、相性の良さはこのトゥールーズのオケがピカイチである。

2012年12月の来日公演で聴いたシェエラザードは今でも忘れがたい超名演だ。

 

そして今日の演奏、実に満足度の高いものであった!ソヒエフはさすがである。

驚いたのは、プログラムの前半と後半でオケから全く違う音色を引き出していたことだ。

今日のプログラムは全てロシアもの(ハチャトゥリアンは正確にはアルメニア人だが)。前半のグリンカ、ハチャトゥリアンが、土臭さが残る音楽であるのに対し、後半のチャイコフスキーの「白鳥の湖」、私が死ぬほど愛してやまない曲であるが、フランスの影響が色濃く感じられる洗練された音楽だ。

ソヒエフはこれを見事に描き分けていて、前半のオケはやや灰色がかったモノトーンの音色だったのに対し、後半のチャイコフスキーは色彩的であることはもちろん、響きがエレガントで優雅。聴いていて楽しくて、もう頬が緩みっぱなしであった。こんな極上のときが過ごせたのは、本当に幸せである。

ソヒエフ、前半は指揮棒を使い、後半は指揮棒を使っていなかったが、このあたりも聞こえてくる音の違いに影響しているのかもしれない。

 

後半のチャイコフスキー、オケの音色は本当に素晴らしい。艶やかで色気に満ちた弦セクション、昨日一昨日に聴いたニューヨーク・フィルのややざらついた弦の音とはまるで違う。「ナポリの踊り」のコルネット・ソロも柔らかくて尖ったところがない。そして、洗練の極みといえるパ・ダクシオンにおけるヴァイオリンとチェロのソロ!!ビロードのような手触り。ハープがまたきらきらと輝いていて最高だ。

 

前半、ルスランとリュドミラは意外にもかなりどっしりした趣きのアプローチ。

ハチャトゥリアンのフルート協奏曲はもともとヴァイオリン協奏曲の原曲を大フルーティスト、ジャン=ピエール・ランパルがフルート用に編曲したもの。個人的にはこの曲、ヴァイオリンで聴く方が好きではあるが、フルートで演奏するとこれがまたものすごいテクニックの超難曲となる。ベルリン・フィルの首席フルート奏者であるエマニュエル・パユの華やかなソロとあれば、まずかろうはずもない。この曲、演奏困難ゆえなのかどうかはわからないが録音もあまり多くはなく、私はパユのCD(ジンマン指揮チューリッヒ・トーンハレ管)を持っているのみ。実演で聴くのは当然初めてである。

 

ところでパユが足もとに小さなハコのようなものを置いたので、何かと思えば、譜面台の上にあるタブレット(iPad?)の譜面を、その小さなハコを踏んでめくっていたのである。ネットで調べると、iRig BlueTurnという商品のようだ。

 

オケのアンコールはカルメン前奏曲。意外にすっきりと、すいすいと進むタイプの演奏であった。

 

弦はハチャトゥリアンが14型、その他が16型で通常配置。

 

総合評価:★★★★☆