読売日本交響楽団 第606回名曲シリーズをサントリーホールにて。

 

指揮=シルヴァン・カンブルラン

天使=エメーケ・バラート(ソプラノ)

聖フランチェスコ=ヴァンサン・ル・テクシエ(バリトン)

重い皮膚病を患う人=ペーター・ブロンダー(テノール)

兄弟レオーネ=フィリップ・アディス(バリトン)

兄弟マッセオ=エド・ライオン(テノール)

兄弟エリア=ジャン=ノエル・ブリアン(テノール)

兄弟ベルナルド=妻屋秀和(バス)

兄弟シルヴェストロ=ジョン・ハオ(バス)

兄弟ルフィーノ=畠山茂(バス)

合唱=新国立劇場合唱団

びわ湖ホール声楽アンサンブル

(合唱指揮=冨平恭平)

オンド・マルトノ:ヴァレリー・アルトマン=クラヴリー、大矢素子、小川遙

 

メシアン:歌劇「アッシジの聖フランチェスコ」(演奏会形式/全曲日本初演)

 

この演奏会の前3日間、ベルリン・フィル来日公演ですっかり舞い上がり、そしてはしゃぎすぎて夜更かしし、毎晩飲んだくれていたので、ブログの更新が遅れるうえに、完全二日酔い・グロッキー状態でこの「聖フランチェスコ」に臨むことに…

 

メシアン唯一のこのオペラ、正味演奏時間で4時間半、休憩を入れると5時間半超という超大作である。1983年11月28日に、小澤征爾指揮パリ・オペラ座で初演された(このときのプロダクション、12月6&9日の録音がCDになっている)。当時の新聞にこのことが大きく取り上げられていて、小澤征爾が「演奏不可能だ」と叫んだ、と書かれていたことを思い出す。

実際聴いてみればわかるが、これは超難曲の部類に属する音楽であろう。そのうえ、この長さである。

まず、このものすごいオペラを、今回驚くべき高水準で日本初演した関係者の方々に心から敬意を表したい。まさか、こんなものが日本で聴けるとは全く思っていなかった!

 

さてこの作品、通常のオペラとは違って明確なストーリーがあるものではなくて、聖フランチェスコの逸話がいくつか羅列的に取り上げられているに過ぎないので、オペラというよりオラトリオに近い作品である。極めて宗教的な内容であり、ワーグナーの「パルジファル」に近いものがある。メシアン自身による台詞は宗教的内容が主であるが、第1幕第3場、フランチェスコがハンセン氏病患者に奇跡を施すシーンなどはそれなりに物語的ではある。

メシアンがこのオペラに付けた音楽は、晩年の作品ではあるものの、それこそ1946年〜1948年にかけて書かれた傑作「トゥーランガリーラ交響曲」に近い明るい音色がある。強烈な七色の光を放射するかのような濃厚な音楽があると同時に、メシアンのライフワークと言っていいであろう、鳥たちの鳴き声が全編にこだまする音楽なのである。

ハイテンションに繰り返される強烈な音型と変拍子のリズム、延々続きいつ終わるのかわからないシロフォン・マリンバ・ヴィブラフォン、そして執拗に繰り返される鳥の声を奏でる、ピッコロを始めとした木管群。ハイレベルな読売日響は、こうした作品でも全く破綻することなくこの長大作品を完璧に演奏した。そして、タクトを執った音楽監督シルヴァン・カンブルランのエネルギッシュな指揮にはただただ驚嘆せざるを得ない。こうした現代作品を振ったとき、この指揮者がいかに活き活きとして素晴らしいことか。やはり、この人には新世界とかボレロとか、ニューイヤーコンサートのヨハン・シュトラウスとかを振らせてはいけないのである。いや、いけなくはないがあまりにももったいない。

 

ただ、やはりこの作品、さすがになんぼなんでも長すぎるか。第1幕はグロッキー状態だったこともあって結構うとうとする瞬間が多かったが、これは台詞が単調だったことも原因である。

第2幕はなんと2時間である。これはさすがにきつかった。途中退席するご老人が続出。この第2幕第6景「鳥たちへの説教」、なんと聖フランチェスコによる鳥の鳴き声の説明が延々続くのだ…聖フランチェスコに題材を取っていながら、実はメシアンの鳥オタクぶりを聖フランチェスコに語らせているというマニアックな作品なのであった。

第3幕ではさすがに結構な数の客が姿を消していた。

 

独唱陣、主役聖フランチェスコを歌ったヴァンサン・ル・テクシエが実に素晴らしい。聖人らしい真摯なイメージがとてもよかった。天使役エメーケ・バラートの清冽な歌声も魅力的である。皮膚病を患う人を歌ったペーター・ブロンダーの感情表現も見事。兄弟たちはあまり印象がないが、マッセオを歌ったエド・ライオンは声もしっかり届いていて若々しくよかったと思う。

 

問題は合唱である。新国立劇場合唱団、いつものあの精緻な感じがない。特に女声合唱の高域は音程が不安定で、声がひっくり返るところがあったりして「らしくない」という印象だった。よくよく見てみるとびわ湖ホール声楽アンサンブルとの混成であったから、その辺も理由なのだろうか。

 

オケは16型。日本のオケで、これだけの大作をやって最後までスタミナ切れしないのは驚異的だ。きっと演奏後はヘトヘトだったに違いない。3台使用されたオンド・マルトノはRBブロックの一番上、LBブロックの一番上、そしてPブロック後方のオルガンの手前に配置されていた(LBクラヴリー、RB大矢、オルガン前小川)。それにしてもなんという不思議な音がする楽器だろうか。今の時代だったら、シンセサイザーで十分代用できるはずであるが、一向に変わらないのはやはりこの楽器でないと出せない音があるからだろう。

 

これだけの圧倒的熱演ゆえ、終演後の聴衆(前日のベルリン・フィルとはまるで客層が違っていた)の喝采も半端ではなくて、カンブルランに対するソロ・カーテンコールあり。14時開演、2回の休憩(それぞれ35分)をはさみ、終演は19時50分ぐらいだった。

 

総合評価:★★★★☆