ラ・フォル・ジュルネ2017の2日目。

 

(№242 ホールC)

シンフォニア・ヴァルソヴィア

廖國敏[リオ・クォクマン] (指揮)

 

ジョン・アダムス:オペラ「ニクソン・イン・チャイナ」から 主席は踊る

ストラヴィンスキー:サーカス・ポルカ

コープランド:ロデオ

 

20世紀のアメリカで生まれた3つの作品から成る意欲的プログラム。こうしたプロが当たり前に組まれるのがラ・フォル・ジュルネのいいところなのだが、残念ながらこの公演、かなり空席が目立つ。指揮者のリオ・クォクマンの知名度のせいか?

 

最初の曲はジョン・アダムスのオペラからのダンス・ミュージック。宴席に毛沢東夫人、江青が押しかけ、社交ダンスを踊るとそれに興奮した毛沢東が額縁から抜け出して踊るというシーンの音楽だそうだ。1987年に完成された本作、当時のジョン・アダムスらしいミニマリスティックな要素が強い音楽であり、非常にわかりやすい作品である。演奏はややリズムに硬さが見られたが、作品の素晴らしさは十分に引き出していたと思う。

 

2曲目のサーカス・ポルカは象のバレエのための音楽で、初演時はピンクのチュチュを身にまとった50頭の象が踊ったという。シューベルトの軍隊行進曲がパロディとして現れる。余談だがこの曲、なんとカラヤンが録音している。

今日のオケ、トロンボーンを中心とする金管の輝かしい響きが魅力的だった。弦は12型と小ぶりな編成であったが、低弦が十分に唸って聞こえたのがよい。

 

3曲目のコープランドのロデオはアメリカのカウボーイ民謡を題材にした名曲。個人的には、バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルの名盤で慣れ親しんだ音楽だ。そのバーンスタインの鮮烈でクールな演奏に比べると、クォクマンとヴァルソヴィアの演奏はリズムが硬く、ぎこちなさをどうしても感じてしまう。とはいえ、弦のまろやかで艶のあろ音色や、金管のしなやかで立体的な響きは十分に魅力的。

 

指揮者のリオ・クォクマンはマカオ出身。フィラデルフィア管弦楽団のアシスタント・コンダクターとのこと。

 

総合評価:★★★☆☆

 

 

(№215 ホールA)

林英哲 (和太鼓)

ピョートル・コストゼワ (ティンパニ)

ピョートル・ドマンスキ (ティンパニ)

英哲風雲の会 (和太鼓ユニット)

シンフォニア・ヴァルソヴィア

井上道義 (指揮)

 

グラス:2つのティンパニとオーケストラのための幻想的協奏曲(全3楽章)

石井眞木:モノプリズム(日本太鼓群とオーケストラのための)

 

クラオタ的には興味深い公演が減って小粒になってしまった今回2017年のLFJ。その中では、最も期待していた公演がこれである。

 

とにかく、後半のモノプリズムが驚異的に素晴らしかった!!林英哲と英哲風雲の会、合計7名の和太鼓が圧倒的にすごい。テンションMAX!超クール、かっこよすぎる!終演後はこの巨大会場も沸きに沸いた。和太鼓、素晴らしいなあ。

ベルリンに学んだ石井眞木(1936〜2003)のこの曲、武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」同様、西洋音楽と日本の伝統楽器を融合させた曲として名高い。ちなみに石井眞木、我々の世代には、TBS「オーケストラがやってきた」の司会者としても記憶されている。山本直純氏が無灯火運転で事故を起こして謹慎していた時期の司会者だ。

舞台前方左手に締太鼓7、右手に中太鼓3、舞台中央奥、オーケストラの後ろに大太鼓1。これを7人の筋肉隆々の奏者たちが演奏する。

オケパートはいかにも石井眞木らしい、先鋭的で洗練された西洋現代音楽。これに対して、時に静かに、時にダイナミックに演奏される和太鼓パートは明らかに西洋音楽の趣向と異なり、日本の伝統芸術に見いだすことができる凜とした「気」が感じられる。

それにしても和太鼓の音圧は圧倒的だ。5000人入る巨大なホールA全体を揺るがすほどの壮絶さがある。

オケパート、わずかな緩さはあるものの、前半に比べると非常によく鳴っている。さすがこういう曲をやったときの道義さんは抜群に巧い。

 

この曲をやる前の舞台転換で、井上道義さんと林英哲さんのトークがあったがこれが面白かった。なんと林英哲さんは今年65歳。信じられない。音楽をやっている人はそもそも実年齢よりも相当若く見えるが、林さんは遠目には40代ぐらいにしか見えない。

この曲の初演は今から41年前、1976年のタングルウッド音楽祭、小澤征爾指揮ボストン交響楽団と鬼太鼓座による。道義さんもこの初演を聴いているそうだ。このとき、林英哲さんが初演に参加していて、小澤征爾がバーンスタインはこういう曲絶対好きだから、ということでリハーサルからバーンスタインが見に来ていた。バーンスタインはやっぱりすごく感激してさんざん林さんに抱きついて来たと。道義さんは「バーンスタインは抱きつくんだよなあ…あなた大丈夫?」みたいなこと言ってて面白かった。

 

前半に演奏されたフィリップ・グラスの2つのティンパニのための協奏曲。この曲の主題、どう聴いても「ミッション・インポッシブル」のテーマと同じ音型である。ちなみに、ミッション・インポッシブルの映画音楽の方がこの曲が書かれた2000年よりも先だ。

二人のティンパニ奏者が舞台の一番前の左右に配置され、それぞれが7つのティンパニを叩く。3楽章冒頭のカデンツァがすごい。ただ、オケのリズム感はちょっと緩かった。道義さんが演奏後のトークで、ティンパニの音が相当でかくてオケの音が全く聞こえないから難しい、と言っていたのだが、昼に聴いたこのオケのアメリカ音楽プロでもリズム感が緩かったから、やはりオケのアンサンブルの問題が大きいだろう。もっともこのオケ、LFJ3日間で、リハーサル時間もほとんどない中、相当な種類の公演をこなしているのでかわいそうではあるのだが。

 

総合評価:★★★★☆