すみだトリフォニーホール開館20周年記 すみだ平和祈念コンサート2017《すみだ×ベルリン》 エリアフ・インバル指揮 ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団を、すみだトリフォニーホールにて。

 

ワーグナー/楽劇『トリスタンとイゾルデ』より「前奏曲」と「イゾルデの愛の死」

マーラー/交響曲第5番 嬰ハ短調

 

マーラー指揮者としてわが国に熱狂的な信者が多いエリアフ・インバル。そのインバルが、かつて2001年~2006年まで首席指揮者を務めたのが、このベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団だ。当時はベルリン交響楽団と称していた。

このオケは旧東独時代の1952年に設立された団体。我々音楽ファンには、クルト・ザンデルリンク、ギュンター・ヘルビッヒ、新しいところではクラウス・ペーター・フロールなどとの録音でなじみがあるオケだが、決して名門だという評価がされているわけではないだろう。私の勝手な推測であるがこのオケは、旧西ベルリンに名門ベルリン・フィルを取られてしまった旧東ベルリンにおいて存在価値が浮上していったのではないだろうか。

ちなみにインバルがまだこのオケの首席指揮者だった2005年にこのコンビは来日していて、そのときはマーラーの9番と5番が演奏された。オケの音がとても重かったが、やや音が団子になっていたような記憶がある。

 

さて今回久しぶりに聴いたこのオケの音、相変わらず重い!重苦しいところすらある。なんというか、ざらついた手触りの音色で、前日に聴いたばかりのNDRエルプフィルハーモニーとはだいぶテイストが異なる(もっともエルプフィルはウルバンスキが振っていたので声部が明晰に聞こえたというのもあろうが)。

 

1曲目のトリスタンとイゾルデ、さすがにドイツのオケらしく、音の密度が濃く、濃密な表現。インバルのワーグナー、彼がどの程度ワーグナーを振っているのかわからないが、若干の粘っこさが感じられるけれど、この人が振るドイツ音楽は極めて王道に近い解釈であり、安心して聴けるのがいい。

 

後半のマーラー5番。これまで、インバル師の演奏でどれだけ感動的な体験をしてきたことだろうか!もっとも昨年9月の大阪フィルとの演奏や、さかのぼって2007年のフィルハーモニア管との来日公演は私にはイマイチであったのだが。前述した2005年のこのオケとの来日公演も素晴らしかったし、2000年のフランクフルト放送響(現hr響)との来日公演、2013年の都響とのチクルスにおける演奏は驚くべき完成度であった。

 

さてこの日の演奏、何よりオケの音が非常に重いのだが、オーケストラがかなりかちっとまとまっているのが素晴らしかった。前回来日した2005年にもこのコンビの演奏を聴いているわけだが、オケの技量は当時よりも上がっていると思う。最近、金山茂人著「エッセイ 専務理事の独りごと」で読んではっとしたのであるが、日本のオケが驚くべき進歩を遂げている一方で、当然のことながら欧米のオケも同様に進歩しているのだ。日本のオケを中心に聴いていて、日本のオケの進歩が著しく欧米のオケに追いついてきているな、ということばかり考えていたのであるが。当たり前の事実を忘れて近視眼的になっていた自分を恥じ入るばかりだ。

 

とはいえ、響きの透明度や、インバルの意向の徹底度は都響の方が勝っていると私は思う。それにしても、ホルンの太く硬めの音や、ドイツ管を使っているクラリネットの音など、都響をはじめ日本のオケとはずいぶんと違うものだ。今2013年の都響ライヴ(EXTON)

をハイレゾで聴いていて、都響が日本のオケのなかでもかなり重厚なサウンドを持っているとつくづく思うのだが、それでもベルリン・コンツェルトハウスの音とは大きな違いがある。というか、全く違う!

インバルの解釈はここ数年の演奏と基本的に同じであり、速めのテンポで圧倒的信念に基づいてぐいぐいと推し進めていくタイプで、説得力は抜群。しかしながら、驚いたことにフィナーレのエンディング近くで思い切ったリタルダンドをしてオケを咆哮させたのだ。これはインバル師の演奏でも、従来聴いたことのない解釈である。これはこの日に限ったアプローチなのだろうか?音楽のスケールが、従来にも増して一段と大きくなったような気がする。この13日の公演は、彼らの来日公演の初日。次回22日の東京文化会館の公演がどう変わっているのか、楽しみだ。

 

オケは16型通常配置、前半のコンサートミストレスは読売日本交響楽団のコンサートミストレスを兼務する日下紗矢子であった。

平日のすみだトリフォニーホールということで、満席ではないものの結構人は入っている。というより、私を含めインバルの熱狂的信者が集結した感があり、終演後の熱狂はいつもの通り、ソロ・カーテンコール1回。

 

総合評価:★★★★☆