ヴァレリー・ゲルギエフ指揮マリインスキー・オペラを、東京文化会館にて。

 

チャイコフスキー:エフゲニー・オネーギン

演出:アレクセイ・ステパニュク

 

オネーギン:ロマン・ブルデンコ

タチヤーナ:エカテリーナ・ゴンチャロワ

レンスキー:ディミトリー・コルチャック

オルガ:ユリア・マトーチュキナ

グレーミン公爵:エドワルド・ツァンガ 他

 

マリインスキー・オペラ来日公演の楽日は、ロシア・オペラの中でも抜群の人気を誇るオネーギン。

プーシキン原作のこのオペラ、ストーリーはとてもわかりやすいのだが、主人公にあまり共感できないのが私にとっては難点だ。まあ、小さい頃近所にいた冴えない田舎系の女子が、大人になって化粧して結構美人になってたりするあの感覚に近いと言えばそうかもしれないのだが。

 

今日の公演も、ドン・カルロ同様歌手はなかなか水準が高い。私が特に気に入ったのは、レンスキー役、伸びやかで艶がある声のおなじみコルチャックと、堂々たる迫力と暗さを持つオネーギン役ブルデンコ。あとは、リリックソプラノ、タチヤーナ役ゴンチャロワ。舞台姿としてはやや地味だろうか。特に第3幕で雰囲気をがらっと変えて欲しかった。もう少し華が欲しい。いや、歌はすばらしいのであるが。

グレーミン公爵役ツァンガ、私の持つグレーミンのイメージと違い、若くて低音の深みが不足。オルガは低音が弱かったような。トリケを歌ったアレクサンドル・トロフィモフはとてもいい味を出していた。

 

演出はマリインスキー劇場の舞台監督であるアレクセイ・ステパニュク。第1幕、合唱団はロシアの伝統衣装を身につけていて、ロシアのオペラ座の来日にはうってつけ。衣装が当時のものだし、変な読み替えが一切なく、第2幕、第3幕のパーティは極めて華やかで色鮮やか!こちらも引っ越し公演にふさわしい。

オケは非常に深いいい音を出している。先日のドン・カルロも素晴らしかったけど、今日のオネーギンはさらに雄弁だ。

その昔、ソ連が崩壊してすぐにこの劇場—当時は、暗殺されたソ連の政治家の名前を取ってキーロフ劇場と呼ばれていた—が来日したときは、オケはぽんこつだった。その原因は、楽器がぼろかったということもあろう。

しかし、その後カリスマ指揮者ゲルギエフのおかげでこのオケは飛躍的に改善していったのである。ゲルギエフは、プーチン大統領と親しく、政治的な嗅覚に長け、小澤征爾同様お金を集める才能もある。今日ピットで聴いたこのオケの音は、おそらく、帝政ロシア時代の輝かしい音を取り戻しているのではなかろうか?楽器もいい楽器になっているであろう。ホルンなど、ソ連時代のロシアのオケの、あの太い音を少し思い出させる音であるが、その上で控えめなのである。

ドン・カルロの暗殺シーンは演出のせいもあってオケも間抜けな印象だったが、今日の決闘シーンの音楽は、演出の良さも手伝って、オケもものすごいインパクトがあった。このシーンの暗いイメージ、パーティシーンとの落差がすごい。ゲルギエフのエッジが効いた表現はさすがで、いかにやっつけ仕事が多くてもきちんと決めるところは決めるのだ。

ちなみにピットを覗いたら、マイクがあちこちに立っていた。録音をしていたのか、あるいはどこかスピーカーから音が出ていたのか。

 

今日は楽日ということもあり、終演後の舞台にはジャパン・アーツの垂れ幕が下がり、そして紙吹雪が舞った。

ドン・カルロと異なり会場は満席に近い。やはり、ロシアの団体が演じるのであれば、ロシアものの方が一般的には興味があるということか。