新国立劇場オペラパレス、ワーグナーの楽劇「ワルキューレ」(2日目)。
演出:ゲッツ・フリードリヒ
指揮:飯守泰次郎
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
ジークムント:ステファン・グールド
フンディング:アルベルト・ペーゼンドルファー
ヴォータン:グリア・グリスムレイ
ジークリンデ:ジョゼフィーネ・ウェーバー
ブリュンヒルデ:イレーネ・テオリン
フリッカ:エレナ・ツィトーコワ
ゲルヒルデ:佐藤路子
オルトリンデ:増田のり子
ヴァルトラウテ:増田弥生
シュヴェルトライテ:小野美咲
ヘルムヴィーゲ:日比野 幸
ジークルーネ:松浦 麗
グリムゲルデ:金子美香
ロスヴァイセ:田村由貴絵
フィンランド国立歌劇場協力による新制作の2日目。
新国立劇場音楽監督の飯守泰次郎指揮による「ニーベルングの指環」、昨年の初夜「ラインの黄金」に次ぐ第1夜「ワルキューレ」である。「ラインの黄金」は音楽が正直緩かった印象があり、今回は不安を持って会場に足を運んだ次第。
まずは歌手について。歌手の水準はとても高い。
ジークムントを歌ったステファン・グールド、当代きってのワーグナーテナー、実に素晴らしい!ジークムントとしてはやや重いどっしりした声ではあるが、ワーグナーはやはりこのぐらいの馬力と迫力がないと聴き応えがなかろう。
ジークリンデ役は初めて聴くジョゼフィーネ・ウェーバー。圧倒的なインパクトはないけれど安定している。個人的にはもう少ししっとりかつ太めの声が好きではあるのだが。
ヴォータンを歌ったのは、3月の新国立劇場「サロメ」で素晴らしいヨカナーンを歌ったグリムスレイ。実演で聴いたことがあるヴォータン歌いとしては、個人的には、線が太くかつ英雄的な美声を誇っていたファルク・シュトゥルックマンが最高で、東京春で歌っているシリンスだと上手いけれどちょっと細すぎると思っている。その点、グリムスレイはちょうどその間を行くといったところか。深いというより、直線的に飛んでくるタイプの声で、低域はやや絞り出すようなところがある。
ブリュンヒルデは名手テオリン。彼女のワーグナー、キース・ウォーナー演出の新国立劇場トーキョー・リングにおける神々の黄昏(2010)のブリュンヒルデを聴いたことがあるし、イゾルデ役は新国立劇場(2010—2011)で3回、2011年、2012年のバイロイトでも聴いている。それらの印象は、ややヴィブラートがきつめで声がキンキンするというものだったのだが、今日のブリュンヒルデは全くそういうところがなくて、声は深いが、どぎついところがなくて比較的さっぱりしていたのがとても好印象だった。
フンディング役のペーゼンドルファーもとてもいい声だ。フリッカ役ツィトーコワは私のこの役のイメージからするとちょっと細すぎる。8人のワルキューレたちはやや声量にばらつきはあるが安定していたと思う。
さて、飯守監督が振るオケ。
第1幕は正直、本当にがっかりだった。聴きどころ満載のワルキューレ第1幕。録音はもちろん、実演も含めて今まで聴いたなかではおそらく一番残念な演奏で、早く終って欲しいとさえ思ってしまった。起伏が全くなく、ドラマ性に著しく欠ける。オケは粗めでぎこちない。ジークムントがトネリコからノートゥンクを引き抜く部分、ワーグナーはこれ以上ないくらいキラキラした音楽を書いているのだ。それなのに、全く音楽に輝きが感じられない。
それが第2幕になるとだいぶ改善されてきて活き活きとしてきたが、いい部分もあれば相変わらず緩い部分もあるといったところか。第2幕後半、ジークムントとブリュンヒルデが登場するあたりは歌手の表現力に引っ張られて全体がとてもよくなっていったのだが、ジークムントが斃れるシーンなど、もう少し音楽に強烈なインパクトが欲しいところ。
第3幕、冒頭のワルキューレの騎行はオケにもう少し重量感が欲しい。16型と思われるオケ、私の席は前から3列目にもかかわらず、どうもこの部分に限らず全体的に音の重みがない。新国立劇場のピットに入った東京フィル、絶好調のときの音を知っているだけに、今日の演奏はどうにも厚みに欠けるように感じられる。とはいえ、第3幕は音楽の膨らみがかなり増してきて、やっと飯守さんのいいところが出てきたような気がした。
演出はベルリン・ドイツ・オペラの総監督だった故ゲッツ・フリードリヒ(1930〜2000)。最近の(特にバイロイトを始めとするドイツの劇場の)ワーグナー演出に比べれば極めて穏当で常識的な演出であるが、それでも飾りのないシンプルモダンで洗練された舞台のイメージは、いかにも現代ドイツの芸術である。第3幕、驚くほど素晴らしい魔の炎の音楽の部分で、四方が炎で囲まれる舞台はどこかで見覚えがあるが、この舞台の美しさは筆舌に尽くしがたい。
今日の公演、皇太子ご臨席。17時開演、22時30分終演と、やはりワーグナーは長い…ワルキューレ、11月のウィーン国立歌劇場来日公演も実に楽しみである。
