ベルリンフィル12人のチェリストたちの来日公演を、サントリーホールにて。プログラムのテーマは「パリ—ブエノスアイレス」。
フランセ: 朝のセレナーデ
フォーレ: 組曲『ドリー』から「子守歌」
: 組曲『ペレアスとメリザンド』から「シシリエンヌ」
スコット: パリの橋の下
ブールテイル: パリの花
ジロー: パリの空の下
ピアソラ: ルンファルド、レヴィラード
カルリ: パラ・オスヴァルド・タランティーノ
ピアソラ: 愛のデュオ
カルリ: ラ・ディクエラ
ピアソラ: ソレダード
サルガン: ドン・アグスティン・バルディ
ピアソラ: エスクアロ、現実との3分間
(アンコール)
ピアソラ:カランブレ
ピエール・ルイギ/エディット・ピアフ(詞):ばら色の人生
滝廉太郎/三枝成彰編曲:荒城の月
スーパーハイテクチェロ集団、ベルリンフィル12人のチェリストたちの公演を聴くのは、2004年、2006年に次いでもう10年振りである。
当時は第1首席に名手ゲオルク・ファウストがいた。彼は今だってまだ60歳ぐらいかと思うが、極めて残念なことに、いろいろあって今はチェロを弾いていないそうだ。
現在の第1首席はルートヴィヒ・クワントと、その弟子であるブリューノ・ドゥルプレール。二人とも音色は異なるものの、驚異的に素晴らしいチェロを弾くという点で共通している。私はかつて、クワントが弾くブラームスのピアノ協奏曲第2番第3楽章の、格調高く骨のある男性的なソロを聴いてほぼ泣きかけたことがある。
「第1」が付かない首席はマルティン・レーアと、ベルリンフィル・デジタルコンサートホールを運営する会社の取締役でもあるオラフ・マニンガー。これら首席奏者以外も、他のオケであれば首席になっているか、あるいはソリストとしてもやっていけるような実力の持ち主ばかりであることは言うまでもない。
12人が同じ楽器を奏でるなんて、単調になるのではないかと思ったら大間違いで、音色は多彩でカラフル。そのうえ、一人一人が超名手で超絶技巧の持ち主。ただただ舌も巻くばかりの壮絶な演奏である。これだけチェリストがいると、どうしても高音の音程が緩くなったりするものだが、彼らに関してはその心配はほぼないと言って良いだろう。
一人一人の上手さにも惚れ惚れするが、さらに驚くのはミニ・ベルリンフィルならではの合奏能力である。まさに、鉄壁のアンサンブル。指揮者がいないのになぜこれだけぴったり合うのか。そして、圧倒的な瞬発力でクレシェンドもディミヌエンドも自由自在。ピツィカートも気持ちいいくらいにぴたりとそろって響くし、わざと音程を狂わせるような部分でも、その狂った音程がメンバー間で揃っているようにすら感じられるほどである。
曲目はご覧の通りであるが、冒頭のフランセのオーバート、12人チェリストのために書かれたオリジナル曲で、15分からなるそこそこの大作。メインでもおかしくないこの曲が冒頭とは…「朝のセレナーデ」という題名にふさわしい、さわやかで味わい深く、そして粋な音楽である。
前半のこうしたフランス音楽の音色の明るさから、後半のピアソラの哀愁を帯びた曲想や快活なリズムまで、まあ何を弾いてもすごい…アンコールで演奏された「ばら色の人生」の冒頭のハーモニー、なんと色っぽいことだろうか…