マリス・ヤンソンス指揮バイエルン放送交響楽団の来日公演を、サントリーホールにて。

ブラームス:ピアノ協奏曲第1番ニ短調(Pf:クリスティアン・ツィメルマン)
R・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」op.20
R・シュトラウス:オペラ『ばらの騎士』組曲 op.59
(アンコール)
J・シュトラウスII&ヨゼフ・シュトラウス:ピッツィカート・ポルカ
リゲティ:ルーマニア協奏曲~第4楽章

素晴らしい!今年のベストに入りそうな演奏会である。

前半は私が心の底から愛するブラームス1番。先週金曜日にも川崎で素晴らしい演奏を聴いているのだが、今日も大感激!

ツィメルマンのピアノはミューザのときよりもさらに精度が高くなり、深い陰影が施され、滋味にあふれた豊穣な赤ワインのような味わいを持っている。ピアノの音、ミューザのときは割とやわらかい印象だったのだが、今日のサントリーの音は力強く、この曲本来の志向には合っているように思った。おそらく同じピアノを使用しているであろうから、これはホールのせいなのか、調律のせいなのか…14型のオケをバックにしながら全く遜色ないくらいの強靱なタッチが心地よい。
第2楽章、徹底して研ぎ澄まされた表現の静謐なソロ、まさに神だ!そしてその背景に展開される伸びやかでとことん美しいオーボエを始めとする木管楽器。明るいうえにビロードのような手触りのチェロ…本当に胸が熱くなる。

冒頭の低弦の音、ミューザだとバイエルンの音が直感的に感じられたのだが、サントリーホールだとあまり特徴を感じない。しかし、聴き進んでいくうちに、ミューザで聴いたとのはまた別の音の魅力が感じられるようになってきた。第3楽章、弦楽器の艶やかで南欧的な響きは格別である。
今日はミューザのときに比べると、来日公演3回目ということもあってか、ピアノとオケのずれはそれほど気にならなかったが、完璧ではなかった。

16型に拡大した後半、1曲目はドン・ファン。中学生の頃に初めてこの曲を聴いたときの感動を思い起こさせるような快演!冒頭の弦の16分音符が鳴ったとたん、会場の空気がさっと張り詰めるこの感じ。かっこよすぎる!
バイエルンのオケの音は、まさしく現代ドイツのオケの音である。ドイツの音というと、重厚でごつごつした響きを思い出してしまうが、特に旧西ドイツのオケの音は、多くの場合明快で抜けがよく、モダンであると思う。バイエルン放送響はまさに抜けがよい音だ。オーボエのトップがとにかく巧い。

最後はヤンソンスの十八番、ばら騎士組曲。もう最高である。原曲で第3幕の最後に置かれている三重唱では、鳥肌は立つわ涙は出そうだわで大変だった。オケの南国的で柔らかく明るく官能的な音色は、ウィーンの薫りあふれるこの音楽に実にマッチしている。そう、彼らはウィーンと同じカトリック文化圏に属し、あいさつは同じグリュース・ゴットなのだ。オーボエやクラリネットの素晴らしさに加えて、トランペットがビロードのようなしなやかさを持っているのに驚いた。

アンコール1曲目は川崎と同じピツィカート・ポルカ。導入部と最後の音は金管と木管が加勢。川崎で木管が吹いていたかどうか記憶にない。
2曲目は聴いたことのない冒頭部分で始まり現代ものだとわかったが、トランシルヴァニア風の民族音楽になったので、リゲティの初期作品だろうと推測。案の定、ルーマニア協奏曲の4楽章であった。アンコールの前にホルン奏者が出ていったので、いったい何をやるのだろうと思っていたら、この曲は最後に舞台裏でホルンが鳴るのである。こういう珍しい曲をアンコールにやってくれるなんて!ハンガリー舞曲でなくてよかった。

オーケストラのアンサンブルの精度自体は、ベートーヴェンの交響曲全曲チクルスをやった前回来日時(2012年)よりもやや劣っているかもしれないが、その分以前に増して音色の豊かさには幅が出ているような気がする。

予想以上に長いコンサートで、ヤンソンスがカーテンコールでひとり呼び出されて終了したのは9時半。ヤンソンスはその後サイン会があったようだ。若く見えるが既に70歳を超えるヤンソンス。キャンセルも多く健康状態に不安があると言われているが、今日の指揮ぶりは以前同様元気そうだった。

余談だが、終演後に会場で見かけたすらりとした美女…なんと、ボリショイ・バレエで来日中のザハーロワだ!