ヴァレリー・ゲルギエフ指揮マリインスキー管弦楽団の来日公演をサントリーホールにて。
ストラヴィンスキー:
バレエ音楽「火の鳥」(1910年全曲版)
バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1911年原点版)
バレエ音楽「春の祭典」
(アンコール)リャードフ:バーバ・ヤガー

ストラヴィンスキーの3大バレエを一晩で演奏するというトンデモ企画。お得企画ゆえか客席はほぼ満席だ。
私は前半が始まるまで、「火の鳥」は当然短めの1919年版組曲が演奏されると信じて疑わなかった(事実、10日の福岡公演はそうだったようだ)。しかし音が鳴り始めてしばらくして全曲版であることがわかり驚愕…いったい終演時刻はいつなのだろうか。

そして、ゲルギエフの公演にありがちなやっつけ企画であろうと、正直タカをくくっていたのであるが…左にあらず!徹頭徹尾スリリングかつ濃厚な演奏を展開してくれたのである。
思い出してみると、ゲルギエフはロンドン響や日本のオケへの客演では結構やっつけ仕事でいまいちなことも多いのだが、手兵マリインスキーとの公演はやっつけ仕事であったとしても、お互いの信頼関係が半端ではないからなのだろうか、満足度が高い公演になることも多いのである。

さて、今日の公演。対抗配置、弦は13-11-10-9-7に見える。ゲルギエフはここ10年くらいだろうか、爪楊枝のような小さい棒を指でつまんで指揮しているが、今日もそれは同じだった。普通のタクトだと、棒の一番下がコルクで覆われていて、ここを握って指揮をするわけだが、爪楊枝をつまんで指揮することでいったどのような効果があるのか不明。

前半の火の鳥。これだけで普通の演奏会のメインになる大曲である。前半ゆえ、力加減を適度に調節するのかと思いきや、これが全力投球の力演!マリインスキーのオケ、ペレストロイカそしてソ連崩壊により西側にその姿を現したころは、ゲルギエフ・マジックによって驚愕することはあるにせよ、多くのメディアや評論家各氏が絶賛するほど、私は巧いオケだと思っていなかった。しかしここ数年だろうか、オケの経済力が増して楽器がよくなったからなのか、ソロが見違えるほど巧くなってきたのである。
幻想的で色彩感あふれるサウンド。味わい深いソリストたち。子守歌のファゴットも終曲のホルンもいいし、カシチェイの踊りにおける攻撃的なブラス・セクションもいい。バンダのトランペット2名が終曲でコントラバスの後ろに現れ、ロングトーンを奏でていたが全曲版にこのような指示はあっただろうか?
これだけ濃い演奏で前半が終了したのが8時頃。

20分の休憩を挟み、後半はペトルーシュカからスタート。今更ながら、わずか1年で作風が微妙に変化していることに驚く。こちらも前半同様きわめて表情豊かな演奏であり、ソリストたちの妙技はさらに上を行き、トランペットのソロにはしびれてしまったし、フルートソロもオーボエソロも見事。ペトルーシュカが惨殺されるちょっと前だったか、アンサンブルが若干乱れたが全体の高揚感からすれば大したことはあるまい。
続いてハルサイ。ゲルギエフの演奏、第1部はかなり速めで、いつ崩壊するかとひやひやするような進行は昔ながら。あの爪楊枝の指揮棒、ぶるぶる震わす左手で、この難曲がどうしてきちんと合うのか素人目には不思議である。アタッカで第2部に移行、こちらはやや遅めのまったりテンポ。エンディングはゲルギエフならではのハプニング系の終わり方である。

ハルサイの音が鳴り終わったのが9時半。聴いているこちらがもうぐったりするくらいの密度の濃い演奏会だったが、なんと彼らはこの後さらにアンコール、リャードフを演奏…どんだけタフな連中なのだろうか?

今回の来日も相当な強行軍。10月8日から18日まで、13日を除いて毎晩日本国内をどさ回りである。13日の休みの日、ゲルギエフはなんと上海に飛んで、亡くなったマゼールの代役として1日だけミュンヘン・フィルを振ることになっていた。しかし、台風で結局上海行きはキャンセル、他日のすべての公演を指揮していたアンドリス・ポーガ(ボストン響アシスタントコンダクター)が代役を務めたとのこと。ミュンヘン・フィルがなぜ日本をパスして中国ツアーだけなんだ、という不満はさておきである。

明日は名古屋、明後日はNHK音楽祭でサロメ、その次の日は所沢で最終公演。本当にタフだ。