パトリツィア・コパチンスカヤの無伴奏リサイタルを、トッパンホールにて。

ヴィターリ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ より 〈Capriccio di Tromba〉
クルターク: 《サイン、ゲーム、メッセージ》 より
〈メンシャロシュ・ラースローへの追悼〉/〈アニエス・ヴァダシュのための無窮動〉/〈ジョン・ケージへのオマージュ〉/
〈秋の光景〉/〈カレンツァの舞曲〉
クルターク: 《カフカ断章》より
〈誰かが私の服を引っ張った〉/〈私の耳は…〉/〈不安〉
ピゼンデル:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ イ短調
エネスク:《幼き頃の印象》Op.28より 〈フィドル弾き〉
バッハ:無伴奏パルティータ第2番~シャコンヌ
バルトーク:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ Sz117
(アンコール)
サンチェス・チョン:クリン
ピアソラ:タンゴNo.3

モルドヴァ出身の異色のヴァイオリニスト、コパチン。2004年、スクロヴァ指揮N響でベートーヴェンを弾いたときはぶっ飛んだ少女で、左右色違いの靴に、(確か)鼻ピアスをしていたと記憶する。アルミンク指揮新日本フィルとの一昨年の共演ではリゲティを弾いた。N響のときは細くて可愛かったが、その後少し太ったか。

相変わらず、相当個性的な演奏スタイルだ。音は美しくない。美しく弾けるのに、あえてそうしないと思われる。ヴィブラートは控えめで、雑なカテゴライズをすれば、クレーメルやギトリスの範疇か。リズムを取って足を踏み鳴らす。ちょっと尖ったスタイルだが、プログラムも上記の通り、尖っている!新旧東欧の作曲家が多いことがわかるだろう。
ヴィターリはトランペットを模した響き。クルタークはサイン…とカフカを交互に演奏、カフカは断片ながら彼の日記がソプラノによって歌われるのだが、今日はなんとコパチンが弾き語り!クルタークのような一癖ある音楽は、コパチンが演奏するととても味が出て楽しい。
ピゼンデルはバッハの無伴奏に影響した作品だそうで、バッハほどの精神性はないかもしれないが、かなり長大で聞き応えある作品。こうしたバロック作品でもコパチンは独特で、ヴィブラートもほとんどなければ朗々と歌うこともない。
エネスク、ここで初めて普通のヴィブラートを聴いた気がした。ジャズのような乗りのリズムが楽しい。
バッハのシャコンヌは直前に追加されたが、これは後半のバルトーク1楽章とのつながりを考えてのことか。ここでもコパチンはまるで歌わず、まるでモゴモゴと口ごもるかのような不明瞭な歌い回しだ。最近オーセンティックなバッハ演奏を好む自分としては、まあ好きな演奏かはわからないが、この若さで自分のスタイルを確立しているのはさすが。

後半はバルトークの無伴奏ソナタ。バルトークがアメリカに渡ってからの作品である。これはすごい!コパチンの話法はバルトークにぴったりで、ヴィブラート少なめの鋭い弾き込みが緊張感を生む。ヴィオラのような深く暗めの響きがする楽器(1834年製プレッセンダ)がまた何とも心に染み入る。特に第2楽章はエキサイティング!

アンコールのクリン、囁きと楽器が完全にシンクロする非常にユニークな曲!前回もこれがアンコールだったかな?