シャン・ジャン指揮東京交響楽団で「名曲全集第76回」を、川崎市教育文化会館にて。
ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)
リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲 作品34
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第3番 ニ短調 作品30(Pf:ニコライ・ホジャイノフ)
(アンコール)リスト=ブゾーニ:「フィガロの結婚」による幻想曲

ミューザ川崎の主催公演である東京交響楽団「名曲全集」。ミューザが震災により使えないため、今シーズンは川崎市教育文化会館にて開催される。今日はその第1回目。
もともと「産業文化会館」という名前だったホールで、ミューザができる前、東京交響楽団はここで演奏していたそうだ。かなり古い建物で、外観といい内装といい、昭和40年代の高度経済成長期の古き良き香りがぷんぷんする、地味なホール。このホールが古いということで川崎市はミューザ川崎というピカピカのホールを作ったわけだが―—そっちの新しいホールが地震で壊れたのはご存知の通り。ちなみにこちらの教育文化会館はびくともしなかったそうだ。
いかにも一昔前の市民会館だが、驚くべきはその容量でなんと座席数1961。
サントリーホール並みの収容能力である。クロークはないし、トイレはほとんどが和式。ちなみに音響はご多分にもれずデッドであるが、決して悪い音ではない。JR川崎駅東口から徒歩15分またはバスで5分。今日も1曲目が終わってからの遅刻入場者がかなりいたし、やっぱりアクセスがいいとは言いがたい。

さて、今日の指揮者は女流のシャン・ジャン。最近はシモーネ・ヤング、スザンナ・マルッキ、エマニュエル・アイム、日本では松尾葉子をはじめ西本智実、三ツ橋敬子など、実力ある女性指揮者は確実に増えてきている。かつて岩城宏之氏は女性の指揮者が少ない理由として「指揮をするとき胸が邪魔だからだ」というような冗談をおっしゃっていたが…
このシャン・ジャン、日本ではほとんど無名に近いが、現在なんとミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団の音楽監督である。何年か前のPMFにも来ていたが、あまりに情報が少ない。英語版のwikiによると、1973年生まれ、なんと中国は丹東の出身。丹東は中国と北朝鮮の国境の街である。北京中央音楽院を出て、もともとは中国国内でキャリアを積んでいたが、1998年に渡米してマゼール=ヴィラー指揮者コンクールで優勝、その後ニューヨークフィルでマゼールのもとアソシエイト・コンダクターを務めたようだ。
小柄で、コンマスのニキティンさんと並ぶとすごく小さく見えるが、動きが大きいのでダイナミックな印象を与える。
冒頭の火の鳥、このホールのアコースティックにまだ慣れていないのか、ちょっと固くて、金管の調子がよくない。子守唄はちょっとテンポ遅すぎで、終曲に向かって行く緊迫感があまり感じられない。
むしろシャン・ジャンに向いていたのは2曲目のスペイン奇想曲だった。こちらは一転して色彩感あふれる楽しい演奏になって、元気よく指揮台で動き回る彼女のイメージそのままの演奏となった。

さて後半は2010年ショパンコンクールファイナリストのホジャイノフである。舞台に登場した本人を見てびっくり…若い。1992年生まれだからまだ二十歳になるかならないかである。
その演奏であるが、テクニックがすごくて、難曲ラフ3が全然難しい曲に聞こえないのである。私の場所のせいか、ホールそのもののせいか、ヤマハのピアノのせいか、ピアニストの打鍵する力のせいかわからないが、低音がガンガン来ることがなかったのはちょっと残念ではあるが、爆演系より、むしろ叙情的な演奏をするタイプだ。いずれにせよ、大変な逸材、天才である。今回の来日でリサイタルもあったようだが、ショパンコンクールで優勝できなかったことで、興行主にショパンばかり弾かされたりしないのはかえってよかったような気がする。
ラフマニノフのコンチェルトももちろんすごかったのだが、アンコールで弾いたリストは圧巻であった。私は彼のリスト、プロコフィエフが聴いてみたい。リサイタルが終わってしまったのは残念…