セルゲイ・エデルマンのベートーヴェン:ピアノ協奏曲全曲演奏会の第1夜を、すみだトリフォニーホールにて。第1夜は2、3、4番のコンチェルト。オケは広上淳一指揮新日本フィルハーモニー交響楽団。

セルゲイ・エデルマン、1960年ウクライナ生まれのピアニストである。父アレクサンドルはブルーメンフェルト、ネイガウス門下で、セルゲイは父親に教えを受けているから、ネイガウスらの孫弟子ということになろうか。1979年アメリカに亡命、その後教職に就き演奏活動から遠ざかる。2002年から2009年まで武蔵野音楽大学客員教授。2009年以降TRITONレーベルから発売しているCDはどれもレコ芸特選盤となっている。

私は彼のシューマンのCDを持っていてこれが素晴らしかったのであるが…今日の演奏を聴いて、実演はさらに違った意味で素晴らしかったのだ。2012年の今日、昔の大家のような音を鳴らすピアニストが実在することに驚嘆!そう、まるで昔のロシアの巨匠ピアニストのライヴ音源を聴いているような錯覚に陥ってしまう。剛毅でスケールが大きく、鋼(はがね)のような男性的なタッチ。長らく演奏活動から遠のいていた人の例にもれず、正直言ってミスタッチはかなり多いが、そういう表層的な議論がまるでばかばかしく思われるくらいのインパクトある演奏だったのだ。
今日は2、3、4番が演奏されたが、前半が2、3番。後半が4番。終演は9時20分だった。
エデルマン、写真で見るよりもちょっとやつれた感じと言おうか、あんまり顔色がよくなくて、長髪、痩せて長身。非常に小柄な指揮者の広上氏とならぶとその身長差は驚くほどだ…
2番は音色が柔らかくほんのりした温度が感じられる音(ちょっと睡魔が襲ってきてしまった)。これに対して3番、男性的なハ短調、これはまさにロシアの大家の芸風だ!骨太で、強靱な打鍵と豪快なまでの陰影。こういう演奏をするピアニスト、実演ではもうほとんど聴けなくなってしまった。最近のピアニストはみな、もっと端正でバランスのよい演奏をする。
後半の4番、本来であればベートーヴェンがとても幸福な時期に書かれていて、曲想としては女性的なイメージを持っていたのだが、エデルマンの演奏は驚くほど強靱なタッチで、男性的なものであった。こんな演奏を聴いたのは、初めてである。

広上淳一指揮のオケも、そのエデルマンの芸風を見事にサポートする素晴らしいものだった。日頃聴くことができる上品な味付けに加えて、エデルマンの強靱な音に対抗しうる重厚なアクセント。12型のオケにしてはかなりの押し出しだった。

今日の客席は、悲しいことにほぼ5割程度の入り。年度末のこのくそ忙しい時期に、錦糸町に7時に来る人はやはり少数派なのかもしれないが、もったいないことだ。次回第2夜は4月3日(火)19時。お暇な方はぜひ。オススメです。