新国立劇場オペラパレスにて、R・シュトラウスの「サロメ」。アウグスト・エファーディング演出。ラルフ・ヴァイケルト指揮東京フィルハーモニー交響楽団。配役は
【サロメ】エリカ・ズンネガルド
【ヘロデ】スコット・マックアリスター
【ヘロディアス】ハンナ・シュヴァルツ
【ヨハナーン】ジョン・ヴェーグナー
【ナラボート】望月哲也
【ヘロディアスの小姓】山下牧子
【5人のユダヤ人1】大野光彦
【5人のユダヤ人2】羽山晃生
【5人のユダヤ人3】加茂下 稔
【5人のユダヤ人4】高橋 淳
【5人のユダヤ人5】大澤 建
【2人のナザレ人1】大沼 徹
【2人のナザレ人2】秋谷直之
【2人の兵士1】志村文彦
【2人の兵士2】斉木健詞
【カッパドキア人】岡 昭宏
【奴 隷】友利 あつ子
新国立劇場のサロメ、このエファーディング演出が定番となっていて、私の記録では今回5回目。過去の上演の個人的な記録を見ると、最初のシンシア・マークリス(若杉指揮)が大変によくて、このときは歌手本人が踊って本当に脱いだのである。まさに歌って踊れる歌手である。
その後はあまりいい公演がなくて、今回が5回目となった。
今回のサロメ、スウェーデン系アメリカ人のズンネガルド、最初出てきたときはかなり老けてるなあ、と言うのが正直な印象だった。でも、声は少なくとも前半はしっかり出ていたし、7つのヴェールの踊りは自ら踊ったし(これがなかなかちゃんとしていた)、踊りの最後はちゃんとブラをはずしてトップレスになったのだ。後半は若干オケに消されるシーンもあったかもしれないが、なんと言ってもヘロデの説得を全く聞かないときや、ヨハナーンの首を前にした表情は本当に素晴らしくて、演技がきちんとしていたのがよい。私の今日の席は1階の7列目だったから不満はなかったが声量はいまいちなので、席によってはインパクトが薄い歌手かもしれぬ。しかし、間近で観る限り演技力はとてもあって、わがままな王女の表情作りは今まで観たサロメの中では群を抜いていると思った。
それに、この人もう45歳だそうだが、小柄でスレンダーな体型は作曲家が所望した少女のルックス、とまで行かなくても、かなりいい線を行っていたと思う。繰り返すが、この声質でさらに声量があれば本当にいい歌手だと思うのだ。
余談だが、この人18年間ウェイトレスをしていたそうだ。ブロンクスでツアーガイドをしていたともある。オペラデビューは2004年だそうだから、完全な遅咲きである。2006年、カリタ・マッティラの代役としてMETでフィデリオを歌ったとのこと。こういうサクセスストーリーはアメリカならではである。
他の歌手もそれなりに高いレベルだった。ヨハナーン役のヴェーグナー、今まで観たヨハナーンでは一番かっこよかったかもしれない。前回の新国立劇場のサロメでも彼がヨハナーンだったが、そのときはまるで記憶にない。でも、なかなかいい声である。
ヘロデはもともとクリスティアン・フランツが歌うはずだったがキャンセル、マックアリスターが歌った。この人は巧いが、ヘロデ王のいやらしさは今一つだろうか、善人ぽ過ぎる。でも歌はよかった。ヘロディアスのシュヴァルツ、ちなみにもう68歳だが、往年のバイロイト歌手らしく声量は他の歌手を圧倒、迫力はピカイチだった。この人、シェロー=ブーレーズのリングでフリッカを歌っているくらい古い人である。
他の日本人歌手も粒がそろっていて、ユダヤ人役の高橋淳さんはやはりとても巧い。
オケは尾高監督が首の故障で、N響でもおなじみのヴァイケルトに変更。もっとも私は聴くのは初めて。非常に手堅い、いかにもドイツの地元の歌劇場で振ってきた中堅指揮者という感じで、ディナーミクの幅は少なく、ドラマ性にも欠けるが、安定していて聴いていて不安感はない。でも個人的にはもう少しどろどろ感とかオケの咆哮が欲しかった。あまりに淡々とし過ぎているのでは?
エファーディングの演出はもう5回目だから、馴染みだし新鮮味も正直ない。ニンニクのような形のテントはインパクトがあったが、もう驚かなくなっている。