メトロポリタン・オペラ来日公演、ヴェルディの最高傑作「ドン・カルロ」(イタリア語5幕版)をNHKホールにて。


演出:ジョン・デクスター

エリザベッタ(S):マリーナ・ポプラフスカヤ

エボリ公女(Ms):エカテリーナ・グバノヴァ
ドン・カルロ(T):ヨンフン・リー
ロドリーゴ(Br):ディミトリ・ホロストフスキー
フィリポⅡ世(B):ルネ・パーペ
宗教裁判長(B):ステファン・コーツァン

ファビオ・ルイージ指揮メトロポリタン歌劇場管弦楽団、合唱団


客席、2階と3階の両サイドがガラガラ!私は3階Lの1列目だったが、私がいた最前列に数人いるだけで、3階Lサイド、あとはぽつりぽつり。一方、1階席全部と3階中央ブロックはほぼ満席。会場全体でいうと、7、8割の入りだろうか。平日6時開演というのもあるだろうし、やたらに高いチケット代のせいもあろう。出演者も少々拍子抜けかもしれぬ。

そんなわけで、休憩後はEF席からの民族大移動が!主催者がちょっとは押し戻しただろうか。


本日もゲルプ総裁の挨拶で始まる。ドン・カルロもキャストが当初発表と全然変わってしまって、その変わり方は今回の公演で一番すさまじい。

まず、指揮者はレヴァイン→ルイージ(レヴァインの背中の不調)。エボリはボロディナ→グバノヴァ(ボロディナは喉の不調で欧州の他公演も降板したそうな)。カルロはカウフマン→リー(カウフマン、地震と原発で降板)。そして、ネトレプコがやはり原発で降板して、フリットリがその代役でラボエームのミミにスライドしたので、エリザベッタがフリットリ→ポプラフスカヤ。

要は、主役級がパーペとホロストフスキーを除いてほぼ入れ替わったのだ。ファンの失望は当然である。

しかしながら、私は今回カルロを歌った韓国人テナー、ヨンフン・リーに感激した!軽めでさっぱりした声の、素晴らしいテナーである。若くて一途なこの役にぴったりの声ではなかろうか?

クワンチュル・ユン、そしてこのリーと、世界的に活躍する男声歌手は、今や日本人より韓国人のほうが多くなってしまった。日本人で世界的なオペラの舞台で活躍する歌手といえば、女声の藤村美穂子くらいではなかろうか?

今回、女声2名は男声陣に比べると、やや存在感が薄いかな…エボリ役のグバノヴァはややキンキンして、役得のはずがあんまり印象がない。グバノヴァは既にかなりのキャリアを築いている歌手で、私も何度も聴いているけど、今日はちょっと冴えなかった。「呪われし我が美貌」も、普通だともっと感動する場面なんだけど。

エリザベッタ役の若いソプラノ、ポプラフスカヤも今が旬のソプラノだけど、やっぱり一昨年のスカラ座来日(及びリサイタル)で聴いたフリットリのエリザベッタには、かなわんかなぁ…でも第5幕の「世のむなしさを知る神」のアリアとデュエットはなかなか感動的だった。

ホロストフスキーのポーザ公は、とにかく見た目がめっちゃかっこいい!さすが大スター!声はややこもりがちのソフトな声質であり、声に関しては私がこの役に持っているイメージとはちょっと違うのだが、見た目があまりにはまりすぎだし、やっぱりロドリーゴの死は泣ける。

パーペの王様、一昨年のスカラ座でも彼だったが、もう何を言わずとも素晴らしかったのは理解いただけるであろう。フィリッポ2世もマルケ王も、この人ならはずれはまずない。深く包容力があり、はっきりと聞き取れる低音。


ルイージ指揮のオケ。ルイージの音楽は起伏に富み、かつ切れ味抜群で、イタリアオペラの醍醐味を存分に引き出している。オケはやはりやや大味だが、ある意味豪快。


演出はメトらしくとてもオーソドックス。特にコメントすべき事項はない。


ドン・カルロ、イタリア語5幕版を観るのは今回が初めてだ。4幕版だと、カルロとエリザベッタが知り合ったフォンテンブローの森は「前史」ということになって完全にカットされているわけだが、ここはなくてもいいかも…5幕版にすると、フォンテンブローの森のシーンだけで30分近く長くなるのである。今日の第1幕の演出、やたらに照明が暗くて(まさかお上のお達しで電力15%カットか?)眠くて仕方なかった…音楽的には、慣れていないせいもあるが、第2幕(4幕版だと第1幕)以降のほうが断然雄弁に感じる。しかし、第5幕の幕切れって、あんな終わり方だったっけか?4幕版と違うような気がしたが、気のせいだろうか?ここはもう少し版の違いについて研究してみようかと思う。


6時開演、2回の休憩計50分をはさんで、終演は11時近い。疲れた…