大地震以来、ほとんどすべての公演が中止になっているなか、この土日の読売日響は予定通り公演を行う、ということで、前日に席を確保して行くことにした。東京芸術劇場。
予想通り、ホワイエは節電のためとても薄暗い。さらに、会場は空調を切っているらしく、とても寒かった。
冒頭のアナウンスに続き、バッハのアリア(いわゆる「G線上のアリア」。誰の編曲だろうか?)がフルオーケストラで演奏され、その後黙祷がオケ・会場一体となって1分間の黙祷が捧げられた。水を打ったように静まりかえる会場。
一旦オケが全員引っ込んだあと、通常の公演が開始された。
バッハ(エルガー編曲)/幻想曲とフーガ ハ短調
ブラームス(ベリオ編曲)/クラリネット・ソナタ第1番(Cl:四戸世紀)
(アンコール)モーツァルト:アダージョ
グルック(ワーグナー編曲)歌劇〈アウリスのイフィゲニア〉序曲
ウェーバー(ベルリオーズ編曲)/舞踏への勧誘
ドビュッシー(ビュッセル編曲)/小組曲
バッハ(シェーンベルク編曲)/前奏曲とフーガ
終演後、下野さんがスピーチをしたが、本日の公演、関係者でいろいろな意見があるなか、最終的に開催を決定したということだった。
少なくとも計画停電が行われている状況で、しばらくの間、平日の午後7時開演の演奏会というのは開催が厳しいであろう。とりあえずは、開催に踏み切った関係者の英断を讃えたい。
また、終演後に下野さん及び楽員らがロビーで募金活動。私も心ばかり寄付させていただいた。
さて、本日の曲目はトランスクリプションの名曲。最初の「幻想曲とフーガ」は下野が昨年新日本フィルでも取り上げたもの。最後のシェーンベルク編曲のものに比べると、とても地味な響きが印象的だ。続くブラームスのソナタはなんとベリオ編曲。
ベリオといえば、プッチーニ「トゥーランドット」の補筆完成もあるが、こちらのブラームスは完成された音楽をオケに直しているので、未完成を完成させたトゥーランドットとは全く意味が異なる。聴く限り、意外にもとてもオーソドックスで室内楽的な響きのアレンジだ。独奏の四戸さんはこの3月で定年。良くも悪くも、彼の音はオケマンのクラリネットの音であり、独奏者の音ではなく、自己主張が強い音色ではないが、オケのなかにとてもよく溶け込んでいる。しかし、このソナタはもともとが晦渋な音楽だ。
後半のグルック、ワーグナー編曲という珍しいものだが、その割にはかなり地味な響きである。舞踏への勧誘、これは超名曲であるが、ベルリオーズが編曲していなかったら、おそらく世に出ていなかったものだろう。下野の指揮にもう少し躍動感とリズムの切れが欲しいところ。続くビュッセル編曲のドビュッシー、かつて学生時代はアンセルメ指揮スイス・ロマンドの演奏をよく聴いたものだが、よくぞ編曲してくれたというくらいの音楽である。ドビュッシーというより、フォーレを思わせるような響きの音楽。オケ、もう少し明るい音色が欲しいところ。
最後の聖アンのフーガ、この曲私は大好きなのである。オルガンの原曲もバッハのオルガン曲のなかでは一番好きだし、今回のシェーンベルクの編曲も大好きだ。高校時代にはこのフーガをブラスバンドでやったこともある。それにしても、なんという素晴らしい編曲であろうか…オルガン音楽を、オケ全体のカラフルな音色を総動員して聴かせる。その手法はただものではない。シェーンベルクの編曲ものはすべてが素晴らしいが、もっとたくさん編曲してもらいたかったものだ。