皆様 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
昨日大晦日、東京文化会館にて表記のコンサート。
ロリン・マゼール指揮岩城宏之メモリアルオーケストラ
晋友会合唱団
ソプラノ:中丸美千繪、アルト:坂本朱、テノール:佐野成宏、バリトン:福島明也
巨匠ロリン・マゼール、80歳。マゼールが2010年年末の全曲演奏会をやるということで、今まで参加したことのなかった私も今回は参加した次第。
13時開演、23時40分終演とほぼ11時間の長丁場だったので、最後はふらふらになるのではと思ったが、ベートーヴェンの音楽を聴いていると疲れるどころか元気が沸いてきて、全く疲れることはなかった。それに、あっという間に終わってしまったというのが印象である。小学生の頃から慣れ親しんだ9曲であるが、こうして実演でぶっ通しで聴くのは初めてである。単なるイヴェントだと思っていたのだが、オケの気合いもすごくて、すべての曲に全力投球だった。
演奏順は1、2番→トーク30分(三枝成彰氏とオケマン、以下同じ)→休憩30分→4、3番→トーク30分→休憩30分→6、5番→休憩1時間→8、7番→トーク30分→休憩30分→9番
という順である。この日の演奏はustreamによって生中継された。また、映像は3Dにて2月5日(土)朝8時から、2D版は2月6日(日)11時から、スカパーで放送される予定。
オケの実体はN響であり、ざっと見て8割~9割がN響団員。他のオケからの参加者では、フルートの一戸氏(読響)、オーボエの古部氏(新日本フィル)、Vnの西江氏(新日本フィル)、チェロの菊池氏(日フィル)、ファゴット岡本氏(都響)など。木管の首席はN響以外の参加者が多い。ただし、管楽器は曲によって交代するケースが多い(フルート首席は全曲一戸氏)。マゼールはこのオケを"Excellent!"と評して驚いたそうな。
上記の通り、途中企画の三枝成彰氏によるオケマンへのインタビューがあり、とても参考になった。
マゼールはこの臨時編成オケと3日間18時間のプローベを行ったそうだが、9曲あることを考えるともちろん長いということはない。単純に9で割っても1曲当たり2時間。
巨匠はオケに対し、事前にパート譜を送っていたらしいが、弦のパート譜には巨匠指定のボウイング、フィンガリングがすべて記載されているそうだ。これが通常の運指やボウイングとかなり異なっていて苦労するが、マエストロが実現したい音楽にぴったり合っているとのこと。7番の冒頭は、なんと上げ弓で記載されているそうだ。私は事前にその話を聴いていながら、すっかり忘れて見逃してしまった…管楽器も通常ない音が書かれているし、ティンパニに至ってはそもそもベートーヴェンは2つの音しか書いていないのだが、これをマエストロはティンパニのペダルを使って3つ以上の音を演奏させていた。実際、これは聴いていてあれっと思った部分である。
編成は1、2、4、6、8が12型2管編成、他は16型、倍管の4管編成。ただし、第九に限り、弦は16-16-12-12-10の巨大編成となる。
私の席は3階正面1列目だった(クビが痛くならずよかった…)。東京文化会館の音響はデッドでクリアなので、海外の名門オケですら残念に思うことがあるくらい恐ろしいホールだが、このオケはこのホールで聴いても音の素晴らしさがよくわかる、実に巧いオケだ。
巨匠、昔から変わらず、背筋をピンと伸ばし、長目のバトンを手首のスナップを利かせてくるくるっと回す指揮ぶり。それほど振りは大きくない。もちろん、この人はすべて暗譜である。これも相変わらず、細かい部分に「仕掛け」を施し、曲全体におけるそうし仕掛けの積み重ねが大きな演奏効果につながっているのだ。例えば、音量をぐっと聞こえないくらいまで落としたり、通常スタッカートの部分をレガート気味に演奏したり、通常聞こえない第2ヴァイオリンなどの内声部を強調したり。
自分の楽譜を使わせるくらいなので、当然最近のベーレンライター版とは無縁だし、ワーグナー以来の慣習に従って楽譜にない音を追加したりはしている。第3の1楽章終わりのトランペットのファンファーレは2回吹かれていたが、第九4楽章の冒頭のトランペットの歯抜け部分はさすがに全部は吹いていない。ちなみに、第九の4楽章、"Vor Gott!"のティンパニはディミヌエンドしていなかった。
なお、基本的にリピートは省略されていて、第1楽章提示部のリピートがあったのはかつての慣習通り、5番と8番のみ。
マゼールの意志が徹底していて一番すごいと思ったのは第3番。2楽章の葬送行進曲もすごいテンションだったし、仕掛けがとてもはっきりわかって面白かった。他では、やはり演奏効果が高く大編成の5、7、9番は圧倒された。
ただ、プローベがもっと多かったらもっと面白い演奏だったろうな…。第8の1楽章再現部で、過去のマゼールの演奏では通常聞こえないホルンパートを強調したりしていたのだが、今回は全く強調されていなかった。
第9の4楽章あたりになるとやや安全運転な感じもした。それにしても、ソプラノとテノールの独唱はちょっとひどくて、ソプラノは音がフラット気味で高音が出ず、テノールは非力で高音はかすれていた。著名なソリストなのに残念だ。
とはいえ、これだけの水準の演奏をまとめて聴けるとは大満足。大晦日のこういう過ごし方もいい。
客席は13時の段階では1階平戸間にかなり空席が目立ったが、第九の頃になるとかなり埋まっていた。途中参加者が多かったということだろう。
マエストロは翌朝7時半には帰途につくとか。三枝氏のまた振ってくださいとのオファーに、初日にベートーヴェンの交響曲全曲をやり、翌朝ミサ・ソレムニスをやり、その晩にブラームスの交響曲全曲をやるのはどうか、と提案されたそうだ。…すごい。