ゲルハルト・オピッツのシューベルト連続演奏会第1回を、東京オペラシティコンサートホールにて。今回のプログラムは
楽興の時D780
ピアノ・ソナタロ長調D575
10の変奏曲D156
ピアノ・ソナタホ短調D784
(アンコール)
シューベルト:3つのピアノ曲D946-1
1953年生まれのオピッツ、ドイツ正統派ピアニストとして名高い。2005~2008年にかけて、日本でベートーヴェンのソナタ全曲演奏をしている。
私は数回彼の演奏を聴いていると思っていたが、調べてみたらたった2回だった。ブラームスの1番のコンチェルトと、ベートーヴェンの2番のコンチェルト。華やかさはないが質実剛健、奇をてらわず正攻法の演奏であったことを記憶している。
さて、その彼がシューベルトの全曲を弾くという。既にCDでは作品集が発売されているようだが…
これが、素晴らしいシューベルトであった!
アンドラーシュ・シフ、内田光子、ちょっと前だとアルフレート・ブレンデルと言ったシューベルト弾きの、旋律線をくっきりと際立たせた、「歌」を強調した演奏とは全く異なる。むしろ、ハーモニーの厚みをシンフォニックに押し出した、響きの重いシューベルトである。
こうした解釈はオピッツの師であるケンプに通ずるものがあるのかもしれない。しかし、響きは重厚でも、テンポが遅いということはないし、高音のきらびやかさもしっかりと持っているのが特長である。
本日の白眉は後半のD784。この曲は番号で言えば14番と、全21曲では中期に当たる作品ではあるが、割と渋めの、モノトーンの音楽ではある。こういう曲は、むしろ旋律線を強調するより、重厚にピアノを響かせるオピッツのようなピアニストに向いてはいないだろうか?第1楽章の高音のハーモニーの、まさにオペラシティの天井から降ってくるような音色には、本当に感激してしまった…
客席の入りは5,6割程度だろうか。フェルナーのベートーヴェン全曲演奏会のように、トッパンでやったら満席だっただろうけど、オペラシティだとややハコが大きいし、オピッツの芯のあるサウンドを聴くにはやや響き過ぎるか。来週の第2回、別の演奏会で行けないのが残念!D959聴きたかった…
それにしても、あの素晴らしいD784の静かな第1楽章で、キャンディだか何かを15秒以上ばりばりと音を立てて開けていた1階の後ろの方の愚か者には立腹である。ああいう輩は、あまりに無神経過ぎて他人にどう思われるかわからないのか、あるいは耳があまりに遠くて気づかないのか?不思議だ。