英国ロイヤル・オペラ来日公演最終日。NHKホールにて、ヴェルディの椿姫。
配役は下記の通り。
指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:リチャード・エア
アソシエイト・ディレクター:ポール・ヒギンズ
美術:ボブ・クローリー
照明:ジーン・カルマン
振付:ジェーン・ギブソン
ヴィオレッタ・ヴァレリー:アンナ・ネトレプコ
フローラ・ベルヴォワ:カイ・リューテル
ドビニー侯爵:リン・チャンガン
ドゥフォール男爵:エイドリアン・クラーク
医師グランヴィル:リチャード・ウィーゴールド
ガストン子爵:パク・ジミン
アルフレード・ジェルモン:ジェームズ・ヴァレンティ
アンニーナ:サラ・プリング
ジュゼッペ:二―ル・ギレスピー
ジョルジョ・ジェルモン:サイモン・キーンリサイド
使いの男:シャルベル・マター
フローラの召使い:ジョナサン・コード
ロイヤル・オペラ合唱団 / ロイヤル・オペラハウス管弦楽団
なんと、椿姫の最終公演の前日である昨日、ヴィオレッタをマノンを歌い終えたばかりのネトレプコが歌うと発表された。
このニュースに怒る人、喜ぶ人、慌ててチケットを探す人と、いろいろいたはず。ロイヤル・オペラとしては、今回の不測の事態、とりあえず終わりよければすべてよしにしたかったのだろうか。
本日の観客にだけ限って言えば、この決定に怒っている人はまずほとんどいないはず。だいたい、日本で無名の代役が出演するよりうれしいのは当然だし、さらにこう言ってはなんだが、落ち目のゲオルギウを聴くより今が盛りのネトレプコが聴けてよかったと思う人が大半だろう。
ピンチヒッターを引き受けたにもかかわらずこんな結果になったヤオ嬢は、気の毒としかいいようがない。もう彼女は日本には来られないだろう。
一方、そのヤオのさらに代役を務めて立派に責務を果たしたアイリーン・ペレスは今後日本での評判が上がるはず。実際、今日最後のカーテンコールでは彼女も私服で舞台に登場したのだ。
ちなみに、今回のドタバタ、そもそもゲオルギウが直前に私的理由で降りたことが原因なのだ。最大の責任は彼女にあると私は思う。肉体的に不調ならまだしも…彼女は、何千人ものファンを失望させ、関係者を大混乱させたのだ。
さて本日の公演であるが…ネトレプコはやはり、さすがとしかいいようがない!彼女は2年前、既にこのエア演出でロイヤル・オペラで歌っているとはいえ、直前の出演依頼によくここまでの水準で演じたものだ。さすが、プロである。2005年のザルツブルク音楽祭では、彼女が出演する椿姫のチケットは完売し、ブラックマーケットにチケットが流れるくらいの話題だったが、そのときのDVDを観ると、そこまでになるほどの公演とも思えなかった。しかし、その頃のネトレプコよりも、少したくましくなって深くどっしりした声質になった今のネトレプコのほうが、ヴィオレッタには向いているようが気がするのだ。
じゃあ、感動したかと言われると、実は感動までは至らなかった。最後のシーンでも、泣けなかったというのが本音。
正直、彼女以外の主役―アルフレード役のヴァレンティとジョルジョ・ジェルモン役のキーンリサイド―がちょっと自分の好みと違うのだ。
ヴァレンティは、初日よりはずっとよくなっているとはいえ声が軽すぎる上、この役の瞬間湯沸かし器的なバカっぽさが伝わって来ない。どうも、紳士的なのである。紳士的という意味ではジョルジョ・ジェルモン役のキーンリサイドも同じ。さすがキーンリサイドは名唱を聴かせてくれるが、私が持っているこの役のイメージとはちょっと違う。
それに、パッパーノ指揮のオケ、初日同様第一幕のリズムが重くてだるい。トリノのときのノセダとは大違い。合唱とオケがずれずれになるのも、初日から改善なし。弦楽器の音のざらつきと音程の不安定さ、これは今日も気になった。木管もどうもいまひとつ弱い。
ネトレプコの演技に関して言うと、この演出での上演経験ありとはいえ、やはりブランクもあるし突然の出演だからか、表面的には巧くこなしているが、どうも心を揺さぶられない。まあ、これは今回の私の席が最後列から2列目であり、オペラグラスを通してさえ表情がよく見えないということもあるのだが。ところで第3幕の手紙のシーン、一番大事な "E Tardi!" の部分がほとんど聞こえなかったのはなぜだろう。あと、ちなみにであるが第1幕エンディングの慣用のハイEs、ネトレプコは歌わなかった。
終演後は舞台に”SAYONARA”の看板と、NBSと日経から「大成功おめでとう」の垂れ幕が。大成功かどうかはわからんが…とりあえず、今日の公演は見事だった。